まず良いところですがミュージカルを始めとする映像表現は軒並み素晴らしく最高でした。
ここ10数年かなりの高品質を維持(どころか更新)し続けていたディズニースタジオのアニメ映画ですが、今作は珍しくお話にノレませんでした。
前半2/3はとても素晴らしかったですが、最後の1/3は取ってつけたような結論にむかって投げやり気味にお話しが収束していき大変モヤモヤしました。
本作のテーマは「家族の呪い」「家族の崩壊からの修復・和解」ということになりますが、作者にそれを描きたいという切実な想いが本当にあったのでしょうか。
現実の世界で、不和で離れた家族の心をまた一つに纏めるということは、心を砕いて時間をかけて行わねばならないとても困難な作業なのではないでしょうか。
この映画は「家族の呪い」にあたる部分については前半2/3をかけて複数の人物の視点から、とても真に迫る形で描けているのですが、このテーマで映画を作るのであれば、その修復の過程をこそ掘り下げて丁寧に描く必要があったと思います。
そこを放棄してしまっているのは、単に脚本のデキがよくなかったからなのか、作者に家庭が不和になった経験がない故の楽観なのか、全年齢ファミリー向けの映画でそこまで踏み込めないというマーケティング的な思考ゆえなのかはわかりませんが、とにかく「家族の不和を作った原因」とされる人物に、こちらが十分に感情移入できるほどの掘り下げが行われないため、「いやいやそんなことで許せないよ」という気持ちが優ってしまいます。
ミラベルが「こんな家があるからみんな幸せになれないんだ」と家を破壊するラストだったらカタルシスに溢れた映画になったでしょう。
ここまでは私の好みの問題だと思います。
真に問題だなと思うのは、「色々辛いかもしれないけれど、家族と共にいること、家族を救うことが素晴らしいことだ」と結論づけていることで、この価値観自体が、この映画を見ている子供にとっての「呪い」になりかねないことです。この映画を見て育つ全世界の子供たちの側に、「自分を抑圧し傷つけるような家族を救う義務なんて子供にはないんだよ」ということを教えてあげられるオトナがいることを願ってやみません。