おかだ

愛なのにのおかだのレビュー・感想・評価

愛なのに(2021年製作の映画)
4.4
オジサンシナジーによる性愛コメディの到達点


「愛がなんだ」や「街の上で」を手がけた現代喜劇の名手である今泉力哉と、「アルプススタンドのはしの方」のヒットが記憶に新しい職人監督の城定秀夫が、互いに監督と脚本を手がけたコラボレーション企画である「L/R15」。

その第一弾「L」を担うのは、脚本を今泉力哉が、監督を城定秀夫がそれぞれ手がけたR15+の性愛コメディ映画「愛なのに」。

早速感想、とにかく面白い、バカバカしくも心動かされる最高の傑作でした。


あらすじは、古本屋で働く瀬戸康史と、彼に一途に求婚する河合優実演じる女子高生らを中心に、周囲の人たちを交えてバタバタと関係性を作ったり作らなかったりしていくというもの。

まず脚本がめちゃくちゃ面白い。
今泉力哉監督の、古本屋舞台ということもあって「街の上で」のテイストに近いようなコンパクトな脱力コメディが終始展開されていく。

この辺りは特に、不倫を知った一花が真剣に復讐を検討するくだりのあのバカバカしさ。
あれなんかはものすごいコメディの本質を突いてるよなーという感じで、あれもクローズアップすると、本人たちからすると差し迫った笑い事じゃない出来事なのだけれども、一歩引いてみるとしょうもなさすぎて笑えるっていう。

かように喜劇の本質というのはあくまでも悲劇のロングショットであり、そこをやっぱり彼はよく理解しているなと。
もちろん監督もそれを知っているので、今作では映画の中での"笑い"の作り方がごく自然にできている。
例えば終盤のあの「下手」連呼されながらゆっくりカメラが引いていくシーンなんかもまさに、本人はちょっと笑い事じゃないみたいな。


そして何より演出面が素晴らしかった今作。

まず立ち位置によるキャラクター関係の描写という映画的定石をばっちり抑えたストーリーテリング。
基本的な手法ではありながら、割と抜けている映画も多い中で、特に「アルプススタンドのはしの方」で顕著に上手くいっていた部分でもありますが。

今回もやはり、冒頭の古本屋で河合優実が店主の瀬戸康史を窃視するというオープニングから、二人が並んで読書をする様子が本棚というフレームの中にちんまり収まる完璧なラスト。
特にこのラストシーンは、個人的に物凄く感激したのでそれはまた後述したい。

それから、基本的には大人しいカメラの中で会話劇を中心に展開される構成であるため、終盤の古本屋での手紙朗読シーンや、両親のカチコミシーンなど要所でやおらカメラが激しく動く場面ではエモーショナルな演出がよく効いている。

キャラクター描写も、ハンカチという小道具のリレーや、あるいは花束を使ったさりげないシーンなんかで何となく人となりを映し切ってしまう手際がお見事。


あとは「卒業」という映画の引用もさりげないのだが、物凄く上手く機能していたと思う。
劇中でも軽く触れられたように、ダスティンホフマン主演のアメリカンニューシネマの傑作なのだが、一花の言う通り物凄く倫理観を欠いた刹那的衝動を描いた物語で、特にラストで二人がバスに乗るシーンは映画史に残る後味の悪さを誇る。

もちろんこの作品の引用、分かりやすいところで言うと、一花が頻繁にバスに乗るシーンや教会のイメージなんかで、一花が婚約破棄をするのではというミスリードでドラマに起伏を持たせたりしているのだが、個人的に興味深いのはそのラストシーンの対比であった。

「卒業」のラスト、刹那的衝動に身を任せて駆け落ちを敢行した二人が笑顔でバスに乗る訳だが、普通ならそこでスパッと切るところ、そこから異様な長回しを展開する。
すると、先ほどまで人生の絶頂にいた二人だが、次第に事の大きさを自覚し、今後待ち受ける未来を想像してみるみる笑顔が失せていくというなんとも居心地の悪いラストシーン。

対して今作も、普通だったら古本屋で二人が仲良く並ぶあのショットで切りそうなものを、そのままカメラは回り、瀬戸康史の友人らが訪ねてくる。
その際に、隣に座る女子高生を見とめた彼らのあの気まずそうな反応。
あれは、両親カチコミのシーンもそうだが、つまり世間からの気持ち悪いという後ろ指に他ならない訳だが、彼らが去り再度定位置に戻ったカメラが捉えた2人は、未だ明るく幸せそうだった。

もしかしたら、彼らの関係性を正当化する、まさに「愛なのに」という主題の表現として、ラストにこのシーンを「卒業」のある種カウンター的に配置したのではと個人的に思ったり。
知らんけど。


ある意味で、そういった結びつきの尊さ、愛とは何ぞやというテーマを描くべく、中盤のさまざまな面白ベッドシーンも一役買っていた。
教会での一連からのカットもめちゃくちゃ笑ったけれど、個人的にはやはりあの水槽に囲まれた部屋での事後の一花を捉えたショット。
大仰な効果音とゆっくりとしたドリーショットから捉える彼女の姿はまるでVシネで、ここは腹を抱えて笑わせてもらった。

そのほか、ウェディングプランナーとのベッドシーンを物語上の要素としてだけでなく、とあるドラマの前フリとして挿入する点もバカバカしいやら感心するやらで最高だったな。


物凄く長くなったけれど、城定秀夫監督の確かな映画監督としての手腕と、情熱を持たない主人公が何かを見つけるまでを描くという一貫した作家性。
そしてそれらと上手く符合した今泉力哉の脚本により、とんでもない傑作に仕上がった「愛なのに」。

次回の「猫は逃げた」も楽しみですし、15歳以上の人は是非劇場で見てほしい一作。
間違いなくおススメです。
おかだ

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