pipokun

余命10年のpipokunのレビュー・感想・評価

余命10年(2022年製作の映画)
5.0
この映画は「ただの普通こ余命ラブストーリーだったな」と感じてしまう人には少し難しすぎる映画だったと思います
ちょっと映画が好き、齧ったという人が思わず酷評したくなってしまう映画


実は僕は“余命モノラブストーリー”が嫌いです



それなのになぜか自然と涙が流れてしまいました

なぜだか考えてみると、それはこの映画がそもそも“余命モノラブストーリー”ではないからでした

まず、この映画には大どんでん返しも、気を衒ったセリフも、強烈な個性の登場人物も、なにもありません。

ですから、
・何が泣けるかわからない
・普通過ぎる
・なんのひねりもない
・面白くなかった
といった感想を持つ方も当然出てくると思います

そういう方となぜか涙が出てしまうという方の違いはなにか
それは命や生きるということについて本気で考える経験をしたかどうかだと思います
自分が大病にかかったことがある、家族や友人を亡くしたことがある
そんな経験を持つ方は自然と自分と主人公を重ね合わせてしまうのではないでしょうか

そんな経験をしたことがないよ、という方。
もしよろしければぜひ原作者の小坂流加さんの人生をお調べになってから観てみてください

それだけでも全く違う見え方がしてくると思います

そして、なぜ余命1ヶ月でも余命1年でもなく、
余命“10年”なのか

え、なんか長くね?
10年後死ぬなんて誰にでもあることじゃね?
と思った方いると思います

一見少し不思議に思える設定かもしれませんが
映画を観れば自ずとその答えが見えてきます
これまでの「余命御涙頂戴モノ」と全くテーマ自体が違っていると

小坂先生の思いを受け継いだ藤井監督、小松さん、坂口さん、スタッフのみなさんの覚悟と迫力を感じてください

間違いなく、このジャンルの金字塔になる映画でしょう
もはや「ほら感動するでしょ!?さあ、泣いてください!」のような上滑りした作品はもう許されなくなる
こうやって日本の映画製作がどんどん世界に追いついていけばいいな

そして小説を書き終えてこの小説の反響や映画になることや、そしてその映画がこんな風に大ヒットすることになることを全く知ることなくこの世を去った小坂さん。
小説内にあるように悔しい思いを抱えたまま亡くなったのかもしれません。
天国に届くかわかりませんが、こうやって小坂さんの思いが少しずつ大きな輪になりいまは多くの人に届いているよ、と伝えてあげたい

そんなふうに思った作品でした
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