シンプルでシニカルな現代社会へのアイロニー。
CGのテクスチャや人間の造形の適当さというか歪さに、バーバパパっぽい面白さがある。
海上の豪華客船が海に沈むだけのストーリー。
台詞も表情も感情もない人々がピアノ弾いたりプールで泳いだり髭を剃ったり、つまり普通に振る舞ってる。
乗客達は、自分の乗っている箱舟が沈んでゆくことに気づかないフリ(船内への浸水をシカト)をして、半身を水に浸しながらも船長に拍手喝采を送り讃える。
そんな船長は、運転室に警報が鳴り響いていながら、ただ呆然としている。そんな中で、宴会場に顔を出し拍手喝采を浴びていたのだ。ただ、それで喜んでいるとかいう訳ではなさそうだった。
自我の希薄な社会システムとして、人々が描かれているのだと思う。
やがて海に沈んだ箱舟は、謎に海底で動力を取り戻す。眩しいくらいに光る箱舟は、ゆっくりと海底を突き進む。
なかなかドストレートな表現だなと思った。
監督は、人々の盲目性と機械性を指摘し、我々が再び前進するのは、我々の箱舟が沈んでからになるだろう、と言いたいのだと思う。
面白いけど、社会的なメッセージに支配されると、作品としての価値が揺らぐ気がする。監督の言いたいことは言葉で説明できてしまうのだから、この作品がメッセージとして存在する意味がない。
敢えて言うなら、映像は非言語表現だから、このメッセージは国境を越える。
ただ、そのメッセージの内容はもう既に自明のことなので、やはり僕にとってはバーバパパ的な雰囲気を楽しめたという感想が大きい。