ネコカワイイ

ある男のネコカワイイのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.9
サスペンスとしては全く物足りない。でも「人生を上書きしたい」という人間の感情、その普遍的なテーマはすごく良かった。

①戸籍を交換した理由
→多くの人が真っ先に思い浮かぶのが「犯罪歴がある」と「身内が犯罪者」だろうから、実際そうと分かった時も「まあそうでしょうね」という感じ。だから意外な理由が欲しかったところ。

②城戸のラスト
→在日差別などフラグ立ちまくりだったので最後は何かしらあって(おそらく)「別の人生」を歩むことにするのだろうなというのは予想できたから。とはいえ城戸があのまま幸せな家庭で終わったらあっさりすぎるので、あのオチは普通に好き。

一方で、サスペンスとして見るのではなく、例えば「すべてを捨て去って、自分の人生を別のもので上書きしたい」「別の人になってその人生を歩みたい」という感情は普遍的なものなんだな〜と思ってみると、共感できて面白かった。少なくとも自分はそう思ったことは何度もある。彼らのようなドラマ性のある理由ではないけれど。
多分、日頃思わなくても、ほとんど誰しもが考えたことがあるであろうことをテーマにしているのは好きだったし、ゆえに当事者意識が働いて考えさせられる部分があった。

そういえば、こないだ友人の結婚式に行った時、新郎新婦がお互いの両親への手紙で「お父さんお母さんの子供に生まれてよかった」ということを話していた。それを聞いた時、自分は「そんなこと絶対思わないっすわ」と思ったし、むしろ自分で選べない要素である「生まれや育ち」という痕跡を消し去って、別の人の人生を生きたいわいと思った。
なので、自分はこの新郎新婦ではなく彼らに共感したタイプである。

原と城戸も自分に過失があってああいうことをしたのではないし、在日だとか親がしょうもねえとかはもう自分がコントロールできない領域である。悔しいけど。

ただ、それゆえに、ああいうやり方を使ってでも、必死にもがいて、苦悩して、幸せをなんとかして掴み取ろうとしていた様には、なんだかグッときた。
ただ、城戸は別人になったとしても、本質的には嫌でも「望まず受け継がれるもの」を背負って生きていくんだと思う。本当に最低でクソな事だけど、それは呪縛のようなもので。もうなんか個人的にこういうのはほんとヤだ…ってなります。
なんというか、自分の名前の漢字を子供に入れる親のキショさに似ている。あとヘレディタリーを思い出しました。

総合的には、思いのほか全体的にあっさりしていたからもっと人物を深ぼって欲しかった(特に城戸)感はあるが、どっしりと多くの人に刺さる映画だったと思う。
自分は刺さった。