だいき

あのことのだいきのレビュー・感想・評価

あのこと(2021年製作の映画)
4.5
2022年公開映画170本目。

あのことは今も昔も。

フランスではカトリック教会の力が強かった故に、中絶は昔から厳禁とされてきたが、1939年に一時的に法律で認められる。
しかし、第二次世界大戦時のヴィシー政権は中絶を重罪とし、極刑にすることができるようにした。
1975年に中絶が合法化する流れができるまで、何十年も中絶禁止の社会が存在し続け、望まぬ妊娠をした人は辛い思いをしてきた。
本作はまさにこの中絶禁止の社会と化している時代で、フランスの小説家アニー・エルノーが自身の実話を基に書き上げた作品が原作になっている。
主人公は一人の若い大学生の女性で、文学を学び、キャリアを得たいと夢見るも突然妊娠。
子どもを産めば自分の夢は終わるが、中絶は法律で禁止されている。
主人公は社会の中で孤立し、彷徨い、迷走していく。

専門的な医者ですらも中絶という言葉を迂闊に口にできず、男たちも妊娠しているんだからもう妊娠する心配もない都合のいい体としてさらに消費しようとしてきたり、非常に身勝手。
男性教師だって全くの無能だし、かといって女性が味方になるのかと言えば、そうでもない。
これが中絶を取り巻く社会の今でもあるということ。
今もあなたの隣で何気なく過ごしているその人がこんな壮絶な闘いを潜り抜けてきたか、現在進行形でそうしているかもしれない。
主人公を演じたアナマリア・ヴァルトロメイはまだ新人という扱いみたいだが、本作は戦士みたいな鋭い目つきも見せ、凛とした佇まいに闘志を感じる印象的な姿だった。
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