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ちょっと思い出しただけのaktmoviesのレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
4.8
『ちょっと思い出しただけ』(2022)
監督:松居大悟

本作の評価がかなり高いことは知っていたが、これまでの松居大悟作品にはハマりきれていなかったので期待と不安半々で鑑賞した。結果、最近の恋愛映画の中でも一二を争うほど大好きな作品となった。
ここまで的確に恋愛の機微を描くのに成功している作品は珍しく、誰もが共感することができるのでは。

鑑賞中は伊藤沙莉と池松壮亮が愛おしすぎてたまらない。破局を迎えることは分かっているのに、なんとかこの2人の恋愛が成就してくれと祈りながら見てしまう。
コロナ禍の現在から段々過去に遡っていくという構成も巧みで効果的。過去の恋愛を思い出すという言わば全く生産性のない行為を延々見せられているだけで、しかも劇的な何かが起こるわけでもないのに、沼のようにこの2人の一挙手一投足から目が離せなくなっていく。
なぜラジオ体操をしているのだろう、なぜダンスをやめてしまったんだろうといった一つ一つの引っ掛かりがストーリーが進むにつれ腑に落ちていく気持ちよさもある。

自分自身の過去の恋愛についてもちょっとどころじゃなくだいぶ思い出してしまうという、良いのか悪いのか分からない副作用も含めて素晴らしい作品だった。

2022年上半期は『さがす』『流浪の月』『PLAN75』など本当に素晴らしく、鑑賞後何とも言えない余韻を残してくれる日本映画が多く公開されているが、本作品もそれらに引けを取らず、特にラストシーンが残す余韻はこれまで見たことのないほどの切なさと美しさを宿していた。
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