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オッペンハイマーのFernwehのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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過去に私が観たクリストファー・ノーラン監督作品は、大抵はてなマークが残るものであり、(あくまで好みの問題として)私にとって映画館で観るのに選ぶ作品ではありませんでした。が、今回は観たことのある同監督作品で過去一分かりやすかったし、映画館で観て本当に良かった。3時間、長かったけれど、重みとしても必要な時間に思えた。
戦争という狂気に向かおうとする、とりわけ自分の手を汚すわけでない人間が増えた時、オッペンハイマーのような、優秀な研究者たちが良心や信念を削られながら巻き込まれ、利用されていく図式が、Netflixで第1シーズンの配信が始まった『三体』の世界とも被って見えた。更には(アメリカ的なものであれ欧州のものであれ)、共産主義か否かが問われる、当時の緊迫した情勢が、現実の人間関係にも影響していく悍ましさも、戦争中と戦後で、手のひら返しのような仕打ちが当たり前に起こる社会も、恐ろしかった。

何より、様々な葛藤があったに違いないこのテーマに対し、クリストファー・ノーラン監督が真摯に取り組み、作品として日本での公開にもこぎ着けたことに賛辞を送りたい。多くの日本人、特に若い世代が鑑賞することも願う。

第二次世界大戦の被爆国、敗戦国の立場で、歴史教育を受けながら、アジアのいくつもの隣国や少数民族に対して、日本軍がやったことについての教育は全く足りていなかったり、戦勝国の欧米でどんな教育がなされているかを知らなすぎたりするところが、この先の日本で、もっと言えば世界的に、なくなっていくことを願う。
補足があまりにも行き届かない教育に満足せず、様々な立場を知ること、捻じ曲げられた真実に囚われないことに重きを置く時、こうした映画は、その一躍を担っていくと思う。

アインシュタインとの会話を聞いて、1つ考えてしまったのは、「愛国心」を育てることには何の意味があるだろうということだ。祖国を捨てること、捨てざるを得ない局面に追い込まれること、そのことで傷ついたり、罪悪感を抱いたりすること。誰にも故郷は必要なものかもしれない、人生において、どうしても大切な起点になるに違いない、とは思う。ただ、戦争を見据えた時くらいしか、「愛国心」(とか忠誠心)は必要にならないし、あえて育てようとするほどの必要はないのではないか。
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