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オッペンハイマーのRartsManのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.8
原爆の父と呼ばれたオッペンハイマーの半生を描いた本作。

「この男が世界を変えてしまった」というポスターのキャッチコピーより、「その世界に、私たちは今も生きている」という予告の渡辺謙のナレーションの方に真意がある気がする。

時系列が複雑に入り組んでいるとの前情報だったが、半ば注釈のような形の編集だと感じて、そのあたりはさほど気にならなかった。
(このときのこの行動/発言が、この際にこう扱われた、という説明をされている印象)

オッペンハイマー本人や内容については多くの人がレビューしていると思うので割愛するが、私が気になったのはこの映画では一言も言及されなかったヴェルナー・フォン・ブラウンについて。

劇中では彼の名前すら出てこないものの、
“V2ロケット”
“ジョン・F・ケネディ”
この二つの言葉を並べられたら、どうしてもこの映画に映されていない男の功罪を考えてしまう。
知らない人はぜひとも調べてみてほしいが、このフォン・ブラウンは人類で初めてミサイルを作り、そしてアポロを飛ばした、また一人の天才である。

原爆投下後訪れる冷戦時代、核とともに脅威になったのは大陸間弾道ミサイルだろう。
ヒロシマ・ナガサキと違い、爆撃機を飛ばすことなく敵国を狙えることができるようにしたのはオッペンハイマーではない。
V2ロケットだ。

フォン・ブラウンはオッペンハイマーと正反対に、自らが生み出した兵器やその犠牲になんら苦悩を見せなかったと言われる。
ただ、私はそれでもおかしくはないと思う。
彼の技術は今や、手元のスマートフォンのGPSへとつながって、我々はそれを日々使っているから。

彼らの作り上げた世界に我々は今も生きている。
今私はこうしてスマートフォンを使いながらネットワークを経由してFilmarksに書き込んでいる。その行為すらこの清濁ある歴史の中にあり、私もまたそれを(喜んで)享受している現実がある。

劇中にてキリアン・マーフィ演じるオッペンハイマーはこれでもかというほど苦悩の表情を見せたが、どこか、その後の世界に対してすべての罪を背負うキリストめいた存在にも感じられた。
この映画に描かれた彼は、人類を代表した良心だったのかも知れない。
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