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とら男のKUBOのレビュー・感想・評価

とら男(2021年製作の映画)
4.0
『とら男』(97分/監督:村山和也)
★★★★

冒頭、上下のシンメトリーが波で崩れていくビジュアルからセンスがいい。彼女が飛び込んで立った波が、ストーリー的にも波風を立つ予感と重なって秀逸なオープニング。

女子大生のお遊びに付き合って元刑事が時効になった殺人事件を再調査って、そんなバカな、と思って見ていると、意外にもその元刑事の老人「とら男」の存在感が妙にリアル。

気になって調べてみたら、この映画の題材になってる「金沢スイミングコーチ殺人事件」って実際に1992年に起きた迷宮入りの事件で、主人公を演じる西村虎男さんは当時この事件を担当していた本当の刑事さんではないですか!

インディーズ映画で老人が主人公って、珍しいな〜と思ったけど、このキャスティングはずるいとしか言いようがない。虎男さんの風格が作品全てにリアリティを与える。

女子大生とバディを組んでとら男は再調査を開始するが、実話であるが故のドキュメンタリー的な説得力もある反面、逆に実話だからこそフィクションだとしても勝手に物語を作れない縛りもある。

そんな中で、迷宮入りの事件をメタセコイアとかけて、時代に取り残されているものにも「ちゃんと向き合っていけば、何かが変わる」というメッセージを送ったラストのまとめ方は素晴らしい。

97分は少し長いかな、とは思うが、今年のTAMA NEW WAVE で本作と出会えたことは大きな収穫だ。新しい才能に出会えたことに感謝!

*TAMA NEW WAVE ベスト男優賞受賞
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