久しぶりに心から感動した作品。
記憶の中でのみ生きる過去の自分と、それとは別人ともいえる今の自分。それぞれねじれの位置にある中で、あるきっかけで接点を持った時に起きる心のざわめきとアイデンティティのせめぎ合いが描かれています。ある意味普遍的なテーマではありますが、特に帰国子女である自分としては、二つの異なる世界を持つ彼女に対してまるで自分を見ているような感覚になりました。
映画を通して感じたのは監督の優しさ。Noraの現夫であるArthurを悪者として描くのはとても簡単で、作中でも直球のself awareな台詞がありましたが、彼も一人の人間として登場するところに他の作品とは違う奥深さを感じました。バーで2人だけの韓国語の会話を遮らずじっと座っている様子、最後Noraを抱きしめる様子からも彼女に対する愛と信頼の深さを感じる取ることができます。
Russian DollやMorning Showをはじめ長らく脇役を演じてきたGreta Leeの初主演作。アカデミー賞主演女優賞にノミネートされなかったのが残念。確かにドラマチックな感情表現はありませんでしたが、台詞が少なくほぼ表情や仕草だけで語るシーンが多かった分、より一層難易度が高かったのではないかと思います。たまには派手な演技よりもこういった繊細でニュアンスの多い演技を評価してほしいなと思いますが、欧米のセンシビリティではなかなか難しいのかもしれません。
