Junichi

私だけ聴こえるのJunichiのレビュー・感想・評価

私だけ聴こえる(2022年製作の映画)
4.5
" I can be what I am. "

【撮影】10
【演出】8
【構成】9
【音楽】8
【思想】10

手話での会話はこれほどまでに表情豊かになるんですね

連日ニュースショウで
宗教2世の問題が報道されています
コーダという存在も
ある意味で宗教2世と近い立場かもしれません

ろう者の親の価値観と
聴者の世間の価値観
この両者の板挟みになって生きること

コーダ本人にとっては手話が語ること
しかしながら世間一般では
声で語ることが通常のコミュニケーションのあり方
自分にとっての普通を否定される世界

耳の聞こえない親に育てられた聴者
言葉を覚えるより先に手話を覚える人もいる
ときには
世界と親の通訳者となり
自身は聴者として日常を送る

周囲からの様々な偏見(「ろう者の家は静かなんでしょ」等)
そしてなによりも
同情(「親がろう者で大変そうね」等)という暴力にさらされて生きなければならない

そんなコーダの人たちのための「コーダキャンプ」という取り組み
同じコーダの人々が集い
心から悩みや不満を言い合える期間

本作品では
「コーダキャンプ」を経た人たちのその後の日常も描かれます
ユートピアのような「コーダキャンプ」が忘れられず
日常の暴力性に傷つけられていく
そんな中でも生き抜くきっかけを探す
松井至監督のカメラが丁寧に追っていきます

登場人物たちの人生を丁寧に描き出す
松井至監督の仕事はとても尊いものです。

コーダに限らず
生きることに違和感を感じているすべての人に
本作品をオススメします
Junichi

Junichi