ヒムロ

アメリカン・フィクションのヒムロのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.6
実力はあるがパッとしない作家のモンク。
手応えのあった新作の小説は「内容はいいが黒人作家らしくない」という理由でボツに。
大学をクビになり、ヤケになったモンクは「親のせいで道を外れた息子が父親を撃ち殺す小説」を執筆。
実家に戻るも姉が急死、母のアルツハイマーと私生活に次々と問題が降りかかってくるモンクにある日吉報が届く。
「白人の求める黒人らしさ」を描いた小説が異例の契約金で売れたという。
母を施設に入れる金を工面するためにモンクは身分を隠し、皮肉のつもりで書いた本と作家魂を売ることになる…。


まさにポリコレ社会に一石を投じるような作品。
黒人を「黒人」としてしかみていない白人たちの色眼鏡によって振り回される主人公の上質なコメディ映画だった。
「どうせお前らこういう黒人が好きなんだろ?」と貧乏な黒人がクソみたいな親を撃ち殺してから警察に殺される話を書くとかいう皮肉の塊が本当に売れそうな社会だから面白くなっているコメディ。
数十年後にはイマイチ意味がわからない映画になってることを願うばかりだ。

ただの文学なのに黒人作家というだけで「黒人作家の本」として書店で売られるところは最高だった。
しかしそんな「黒人らしさ」を否定したいモンクもまた、色眼鏡で物を語るタイプなのがこの映画のミソ。
ライバル作家のシンタラとの関係性がまさにそれを表していて、後半にガッと心を掴まれた。
結局のところ色眼鏡で物を見るのは悪いことではあるが、そこから逃れられないという所もまた事実で、自分がいつでも色眼鏡で見ていないかという前提を持つことが大事だと感じた。

もしくはモンクとは作家として売れるための魂を売れない作家のメタファーか。
この場合モンクとシンタラのどちらが正しいのかは決められることではないが、間違いなく社会が悪いのは決まっているだろう。

最後の最後には「多様性のあるメンバー」と揶揄されたりする所からバカバカしいオチまで、全て皮肉が効いてて最高。
映画業界も白人以外だから出すのではなく、性的マイノリティだから出すのではなく、ただ自然的に実力や相性のみで選ばれたキャラクターたちの映画を作ってくれることを願う。
ヒムロ

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