ダイアン

オール・ザット・ジャズのダイアンのレビュー・感想・評価

オール・ザット・ジャズ(1979年製作の映画)
3.5
1979年。思えばこの年は「地獄の黙示録」公開であり、クイーンやボブマリーが来日公演をしている。この時点でどこか現実と幻想世界の境界が揺らぐし、戦争やドラッグやセクシャルマイノリティが異界の入り口を開いていた。イギリスではサッチャーが就任して新自由主義が台頭し始めカネと市場の原理原則が未だにはびこる。ソニーのウォークマン発売は日本のイノベーションの皮切りなのか滅亡へのカウントダウンかは今となってはわからないが、振り返ればなんとでも言える。でもその渦中は、夢の中であり自由のなかだっただろう。自分が生まれる9年も前にこんな風に映像をつないでパラレルな世界を行き来して性と退廃とそれらを飲み込む音楽と踊りを映像にできる人がいるなんて。それはまさに夢の中であったはずだ。

映像美も革新的な編集も音楽も衣装も目を見張る。でも最も重要なのはキューブラーロスを引用しながら死へとひた走っていくその様だ。その道のいく先は天国だか地獄だかはよくわからないが、よくわからないままに踊り腐りなおも踊る。まもなく死ぬというそのときに最高のカットを撮り、最高のショーを完成させる。
救済も完治も絶対的な愛も、ない。ないし、望まない。本当はすがらないのだ。ここに出てくる人はミュージカルの仕事にすがり、不都合な愛にすがり、カネにすがる。しかしそれらの全ては死へとひた走るその道中に成仏され、恐怖や宿り木ではなくなり、あとは最後に踊りと歌が残る。まるで一遍上人。死してなお踊れ。絶対的な終焉に向かう現実のなかでしか、ショーは起こり得ないのだ。それは裏を返せば絶対的な現実とは、本当はショーがあるのだ。世界がひっくり返ることなどない現実の中にショーが潜んでいる。
ダイアン

ダイアン