ダイアン

ミッドサマーのダイアンのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
3.5
当時まだアラサー映画監督だったアリ・アスターの早すぎる成熟作品(今もまだ34歳か・・)。ストーリーで多くの推測や物議を醸しているようだが、最も目を引いたのは映像美だ。
世界のあらゆる新興宗教やカルト、信仰体系を調べながら世界観を緻密に作っているのが伝わる一方、花を大胆に使った衣装や演出は現代アーティスト・ぴゅ~ぴるのようにも見えてモダンな現代にも調和する。コントラストと鮮やかな色使いはA24作品に欠かせないし、得意のロングカットも多用。スケールのある動きをしつつも静止画として切り出せるほど丁寧な構図を常に保つから、映像クオリティがとにかく高くて作品に没入していける(特にシンメトリーや横パンを軸にしながら、サイズ感や高さで変化をつけているのが印象的)。

ストーリーといえば、寝ても覚めても緊張感がなくならないオルガの祝祭を丹念に描いている。生(性)と死、儀礼と犠牲、狂気と調和。ホラーでありながらも信仰者たちは常に平穏を保ち続けているため、どこか面白くも思えてしまう。
中盤で主人公の彼が「信仰者たちには彼らなりのルールがある。それに慣れていくしかない」といった旨の発言をし、そこから迷いと葛藤にさいなまれながらも、ついに彼らの言うとおりの行動を繰り返していく(そしてラストへ)。他方主人公は女王となり、カルトそのものになり現実からの救いを手に入れる。全く異なるふたりの行く末。

最高のホラーと感想する観客も多いが、なぜか。それはオルガにはひとつとして裏切りや復讐や怨念といった負の感情がないからだ。彼らは90年来の祝祭をシナリオ通りに進めている。行く手を阻むものは何もないかのように。その先には、コップにしたたる水がついにあふれ出すような、ひたひたと迫る天国と地獄へのいざないの戦慄が待つ。このことがミッドサマーの劇薬であり、現代ホラーのひとつの到達である所以だと感じた。
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