ダイアン

mid90s ミッドナインティーズのダイアンのレビュー・感想・評価

4.5
なぜA24作品は、ここまで鮮やかに人々の痛みを描くことができるのだろうか。個人を圧倒する絶対的な暴力性でもなく、冷たい地下水のようにヒタヒタと足元に流れる静かな恐怖でもない。
描かれる痛みはどこか静かだけれども、生暖かい人間の温度があり、モノクロームではない色味がある。そして、お互いに孤独な登場人物たちが、1人っきりの不安に行き場を失いながらも、人気のない街の片隅で導かれ合うように出会い、不器用なまま手を取り合う姿がある。

4:3サイズの画面も、フィルム調の画質も、発色の良い色調も、音量大きめで踊りたくなるハイセンスなBGMも、「今っぽい演出」と片付けてしまうのは勿体無い。
なにより演出を支える脚本があり、脚本を立体的にするための演出がある。あまりに脚本が良くてびっくりした。

(あとカメラワークと編集はモダンだなと唸る。カメラのサイズもカットの長さも「ミドル」を意識的に避けている。テンポをぐっと上げるとか、長回しで引きからゆっくりと近づいていくとか、フレームいっぱいに顔を映すとか)

「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の狂気的な相方役も「マネーボール」でスタッズキャストをひとり築き上げていた若手データサイエンティストとしても、助演としてこれ以上ないくらい素晴らしい演技をやってのける大好きだったジョナヒル。
初監督作で一体どうやってこんな脚本を書いていたのか?と思ったけど、なんのことはない、当人は元々脚本家志望だしすでに原案やさらに製作総指揮としても作品を世に送り出している。
だがそこを差し引いても、こどもたちへの演技や、飲酒タバコのシーンなどドキッとする演出も、時折登場する女性の独特な色気も(まさに少年時代に、小さな身長で背伸びして見上げた女性の色気なのだ)、監督としての手腕は並大抵ではない。

インディペンデントという枠組みはもう必要ない。あらゆるジャンルや国を超えて、確実に最も「今」流れる血の鮮やかさを描ける製作スタジオだ。

ストーリーといえば、もう胸が締め付けられすぎた。生まれた環境に出口がないこと、家に救いがないことを彼らは小さい時から感じとって、道に出る。道には誰かがいて何かが起こっている。それは曖昧で、危なっかしく、スケートからスニーカーを通して伝わる振動や、酒やクスリのもたらす忘却、音楽のようにリズムを刻む会話に、彼らは今を感じていた。
仲間と共にクルマに乗って、街を軽々と移動しながら窓の外を眺めて、そこに安心があった。僅かなずれで最悪の事態が目の前に迫っていようとも彼らは仲間とクルマに乗ろうとした。
ダイアン

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