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ジョンベネ殺害事件の謎のダイアンのレビュー・感想・評価

ジョンベネ殺害事件の謎(2017年製作の映画)
4.5
ドキュメンタリードラマでもドラマ風ドキュメンタリーでもない、その間に新たな演出を見つけた凄い作品。舞台はジョンベネ事件のドラマを作るオーディション。

まず、オーディション参加者が各々の意見や推理を話す。実際の事件そのものを理解するシーケンスである一方、ここではなんて勝手な意見で判断をして感情的で「大衆」のような存在が見え隠れする。
徐々に内容は「虚実」に向かう。いったい誰が真実で誰が嘘なのか。どんな演技をすべきか。役者たちは誰が似ていて誰の創作なのか。「役者とはその人に100%なりきる必要がある。でも私はジョンべネの母になることはできない」と語る女性。みんながこの不可解な事件を推理し扇動する姿にどこかミステリーを楽しんでいるような、そこに個人のいないフィクションをみているようなそんな気分になってくる(実際の資料映像や夫婦写真を使わない意味がここで出てくる。リアルにイメージを傾けすぎないことが大事だからだ。とても上手い)。

そして終盤はそれぞれの役者が自分の身の回りの体験や家族を語り始める。幼い頃にいたずらをされたこと。父に斧を振り上げられたこと。朝起きたら横で家族が亡くなっていたこと。
ジョンベネ事件がテレビの向こうではなく、「自分と自分の家族の物語」であることに向かう。事件には必ず家族がいて、彼らに寄り添わないといけないとはドキュメンタリーの姿勢として至極真っ当だし、労力を厭わず目指すべきだ。しかし全く違う角度からこれは私たちひとりひとりの物語である、と語りかける、こんな方法みたことがなかった。本当は中盤からどこに向かっていくのか?と不安になっていた。設定の魅力の一方で映像や要素の演出は極めて自制的。実際の映像や報道内容、音声などを一切廃しているし、もっと密度を上げたほうがいいと思った。そうしたら、ラスト一気に加速していく。最後の実際のドラマシーンはあらゆる可能性を撮影しているのだが、そのいずれもがジョンべネ事件の事実などではなく、それぞれの家族の光景だった。そしてそのほんの一寸先に事件があり、悲しみがある。

事件から24年あまりがたち、その後の展開も現在についても何も知らない。そしてこの映画はこうした事実を一切語らない。にも関わらず、推理ゲームと化してセンセーショナルな「ネタ」にまやかされた1人の少女の死を冷静に見つめている。
Kitty Greenという監督は素晴らしい才能があるし、まったく新しい実験を行えるこうしたコンテンツを生み出せるNetflixに改めて驚く。
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