ダイアン

ボーダーライン:ソルジャーズ・デイのダイアンのレビュー・感想・評価

2.5
「最後の追跡」「ウィンドリバー」そして本作もそうだが、テイラーシェリダンの描く舞台はいつも辺境だ。地理的な意味もだが、勿論現代社会という視点において「行き詰まった土地」である。一歩ずれれば人間社会の手の届かない秘境、原始の自然が残る聖なる地など自然番組がその価値を高らかに言いかねない。しかし当然そんな希望とは無縁。仕事はなく、ドラッグや犯罪や不法労働が人々の生き残る術であり、救いはない。
さらに言えば今回はミッション自体が中断され、意味が失われた。この先に待つ痛みや死や殺人は誰にとっても必要でないもの。おそらく記録としても抹消され、なかったことになる作戦。
完全なる孤独、にも近しいがテイラーシェリダンの脚本はそんな状況に追い込む。都会の生きづらさとか、中流層の社会的孤立とかそんなファジーなものではない。家族を殺され、生まれた土地が理由でカルテルに手を染め、気づけば戦争が始まる、圧倒的な絶望。そして忘却。「なかったこと、のその先」を描く。そこにかかる張力・緊張感はものすごい。

観ていながら、一体これはなんのための物語なのか?と戸惑う。誰かを救うわけでもないし、クスッと笑えることもなければ、社会問題提起なら解決のための糸口を盛り込んでほしい。
至近距離から打ち込まれる銃弾はあまりにリアルだし、ヨハンヨハンソンが前作で付けた不協和音的な音効は健在だし、今際の際なんて微塵も感じる瞬間はないほどに人々が死んでいくし。
何がしたくてこんな映画を?金儲けの方法としてあまりに残虐では?などとすら思えてしまったよ正直。
しかし勿論すぐに気づく。この絶対的な絶望は、紛れも無い現実から生み出されていることを。フィクションではあるが、ゼロから生み出された要素は全くと言っていいほどないのだろう。なんのためにあるのかわからない物語。同じ時間を我々もまた生きている。

ただし脚本の都合の良さは何箇所か気になった。ベネチオデルトロとか…いやいやあり得んでしょう。
辺境と狂気を演じるのにデルトロとジョシュ・ブローリンの適役ったらない。ワンカットだけで醸し出せる凄みの迫力。死がすぐ身近にある人間のあまりに冷静すぎる眼。早くコーエン兄弟あたりのコメディに出てほしい。違う表情もできるんだよね?きっと。
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