Junichi

マトリックス レザレクションズのJunichiのレビュー・感想・評価

4.1
「空を虹で彩るのも素敵ね」

【撮影】8
【演出】8
【脚本】7
【音楽】9
【思想】9

モーフィアスだけ若返っちゃった!

前三部作から最も大きく変わったのは
ウォシャウスキ兄弟が姉妹になったこと

若い頃に付き合っていた二人が
二十数年後
一方は結婚し子どもを持ち
家族のために自分の人生を使い

他方は仕事に邁進し結果を出すも
そんな日常に空虚さを感じ

そんな二人が再開し
付き合っていた頃を思い出し
不倫関係になり
全てをなげうって手と手を取って逃げ出す

焼けぼっくいに火がついた話

メタ発言(『マトリックス』三部作や映画界に対する)でクスっとさせつつ
第一作の映像やセリフを挟みつつ
マトリックス世界から目覚める決断をする重要な場面へ

ここでなぜか舞台劇のような演出になります
嫌いじゃないです(むしろ好きです)

思えば第一作も
洋館でのモーフィアスとのくだりから
マトリックス世界から目覚め
その後モーフィアスによって現実世界の仕組みが説明される

この一連のシークエンスが
『マトリックス』という作品の最も【リアルな】箇所

哲学者のヒラリー・パトナムが思考実験として提示したものに
【水槽の中の脳】というのがあります

あなたが生きているこの世界は
実は脳が見ている夢で
真の【リアル】な私は 
実は水槽の中で浮かんでいる脳がだけである

科学者がこの脳に感覚・知覚刺激を送り
あたかも私が世界を経験しているかのような夢を見させている

そして水槽の中の脳である私は
こうしたこと全体を原理的に知ることはできない

デカルト的な誇張された懐疑(世界の外部の想定)とともに
『マトリックス』という作品が
哲学の論文でも引用される理由です

本作品でもモーフィアスとのくだりが反復されますが
ただただ反復されるだけなので
観客はデジャヴュに包まれます

いわば20年の時を経て
第一作を反復したようなもの
しかし役者たちは20年時を経ているので
そこが大きく異なる点

唯一異なるのが精神分析家が出てくる点

マトリックス世界から目覚めた真の世界は患者の妄想で
つらい現実から目を背けるために形成されたものと解釈されます
実にフロイト的な医師です

これに対してラナ・ウォシャウスキーの解釈は
妄想こそが現実で
妄想の持つ【リアルさ】こそが生きることに直結しているという
ユング的な立場です

自分もユングの立場に同意します

本作品
『マトリックス』第一作にワクワクした人にオススメします
Junichi

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