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鬼滅の刃のmegurosのレビュー・感想・評価

鬼滅の刃(2019年製作のアニメ)
4.5
鬼に一家を惨殺され、生き残った妹・禰豆子も鬼に変えられた。竈門炭治郎は鬼を滅する鬼殺隊に入り、鬼と戦う中で妹を人間に戻す手段を求めることに...。

人が鬼になる、そこからゾンビ映画を連想した。ジョージ・A・ロメロ監督「ゾンビ」(78, Dawn of the Dead)ではショッピングモールが舞台となり、死人のようにただ消費を行うようになった人間を、そして大衆消費社会を皮肉的に描いていたが、ゾンビはその存在を通じてその時々の人間のあり方を歴史的に問いてきたジャンルだ。

では、本作における鬼とは何なのか?鬼もやはり現代の日本社会に蔓延る闇の表象ではないか。

鬼は基本的に群れることができず、鬼が集まると鬼同士でいきりあってすぐ喧嘩を始める。自分の食欲や利益のためだけに他の人を食い物にし、そして人を喰らうことで自らの力を強化する。

自分を慕う者にも容赦なく、平然と酷い仕打ちを行う人のことを我々は「鬼」と呼ぶことがあるが、鬼は正にその鬼のことである。家族の絆を自ら壊してしまった鬼、親や師匠から否定され傷ついた鬼。鬼には大抵悲しい物語があり、鬼と人とは紙一重の存在であることが描かれる。主人公の炭治郎はその鬼を敏感に匂いで感じ、鬼に対峙し、戦いを通じて彼らを成仏させていく。

例えば、煽り運転のドライバー、老人を食い物にする詐欺師グループ、鬼滅的には彼らは鬼ではないか?そしてその鬼は元は人間だった...ということを思わずにはいられない。炭治郎たちは弱く、鬼を前に歯が立たないことも多い。しかし、それは正に我々も一緒で、この国に広がった鬼的なるものと対峙する全ての人へのエールになっているはずだ。お涙頂戴で道徳教育的な側面も強いが、この漫画原作が少年誌発で国民的ヒットとなったことにはしっかり理由があるように感じた。

バトルの勝敗を分けるロジック、死地を脱するロジックが”人間性”(人が大事に書いた原稿を踏みつけにしないことで身体に負担をかけない足運びを体得...etc)に置かれていたり、炭治郎やその他のキャラクターの精神的な成長がその後のバトルの勝敗ロジックの伏線になっていたり、その伏線の畳み掛け、鬼から想起されるテーマも合わせた構成が非常に巧みだ。

特に特筆すべきは19話。諦めない、挫けない、心が折れても折れないという成長を経た炭治郎の次の戦いでは、実際に刀が折れてしまう。死を意識したその瞬間、18話の善逸の臨死体験が伏線となり、走馬灯を見る中で過去からその死地を脱するアイデアを得るものの、それでも相手の強さには届かない中で、テーマだった”家族の絆”が立ち上がり相手の糸を切り裂くというその展開は、シリーズ屈指の名シーンだった。

17話も良い。一つことしかできないのであれば一つのことを極め抜け。雷の呼吸 一ノ型を小学生が傘で真似する訳がようやく分かった。
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