KingKazukiManji

PLUTOのKingKazukiManjiのレビュー・感想・評価

PLUTO(2023年製作のアニメ)
5.0
歴史上最高傑作のアニメーション。
こんなにも素晴らしく感動的なアニメは観たことがない。

『PLUTO』は、昨今のコンテンツと化し、飽和状態にある日本のアニメーションも、まだまだ世界最高水準を塗り替えることができると証明してくれたように思う。

1話1時間の8エピソードあって、どのエピソードをとっても1本の映画のような完成度だ。まるで賢者の石から死の秘宝まで観ているかのような内容の濃密さと没入感があった。

手塚治虫は60年前の1964年に『史上最大のロボット』を描き切った。そして浦沢直樹は20年前の2003年に『PLUTO』を描いた。どちらも昔の作品ではあるのだが、どちらもテーマが現実にとてもタイムリーなのだ。ここに、手塚治虫が提示した生命というテーマが、どの時代でも普遍なことが伺える。漫画という比較的に誰でも楽しめるメディアにおいて、生命というとても深くて難しいテーマを扱った手塚治虫はやはり天才だったとはっきりわかる。そしてそれを10倍にも膨らめ、翻案した浦沢直樹の鬼才ぶりも改めて見て取れた。どの時代で描かれた作品でも、とても現実と密接に繋がる。これこそが漫画とかアニメとか比較的に誰でも楽しめるメディアで描くことだと考えるのだ。だから最近の気骨のない作品とは一線を駕してリアリティが生まれるし、ただ消費するだけのフィクションでは終わらせられないのだ。

ひとつ面白いことがあって、本作の世界観では、人種差別というものが描かれていない。だからといって差別がないわけではなく、ロボットに対する差別がこれでもかと描かれる。人は必ず何かを見下して、自分を上に見て優位性を保つ生き物である。だからこそこの世界では上辺の人種差別がなくなり、新たな標的であるロボットに差別が行ったのではないだろうか。ロボットにおける人間らしさとか、そういうことではなく、誰かを下に見ること、憎しみを育むこと自体を否定しているのが素晴らしいのだ。昨今のヘイトクライムも、偏った憎しみからしか生まれていないような気がする。これを戦争というマクロな視点と、プルートゥのミクロな視点の2つで交互に描いていることが心を揺さぶられる。

本作では主に世界最高水準の7体からの視点でしか描かれなかったが、どんなロボットでもバックグラウンドが存在し、それを見てしまうと我々はどうにもやるせない気持ちになる。このやるせない気持ちという言語化不可能な現象を描き切ってくれたことが『PLUTO』という作品の凄さだ。

どんな言葉で形容しても、本作の素晴らしさを完全に表現することは不可能であるように思う。だからこそ、筆舌に尽くし難い本作を、観て、浴びて、体験して感じ取って欲しいと思うのだ。そして、エンタメの面白さを超えた普遍のテーマである「生きること」について考えてみて欲しい。とにかく人に強く薦められる極上の作品である。

とにかくNetflixはどんどん浦沢直樹の作品を再アニメ化して欲しい。『MONSTER』や『BILLY BAT』なんかも、Netflixでしか描けないというか表現しきれない作品だと思うのだ。
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