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ヴァイオレット・エヴァーガーデンのおにおにのレビュー・感想・評価

5.0
「お初にお目にかかります。お客様がお望みなら、どこでも駆けつけます。自動手記人形サービス、ヴァイオレット・エヴァーガーデンです」。

前から気になっていた作品。今回書くのは映画ではなくテレビシリーズの話です。

京都アニメーションといえばあの痛ましい事件が記憶に新しい。
この作品の劇場版製作中にあの事件が起きて、製作が一時ストップして、再開して、予定からは遅れて、さらにコロナもあって・・
劇場版「外伝」は事件の犠牲になった方々にとっての「最後の作品」になりました、っていうニュースをテレビでみた。
公開されたのが2020年の秋。何か別の映画を見に映画館に行ったときに、近日上映だかなんだかでいろいろ展開してて気になった映画です。
ですが、オリジナルのテレビシリーズを1話も見たことがないのに観てもわかんなそうだしなあと思って、そのときに劇場で観るのは敬遠したんです。

私は気になる映画はなるべく映画館で観たい派です。
なぜかというと、テレビとか録画とかだと、途中で飽きて挫折して放り出してしまうことが多いからです。
映画館であれば、まず途中で席を立ったり、別のことをしながら観たりということはなく、最後まで集中してみれるでしょ?

いまはアマゾンプライムビデオとかでいろんな作品を見れますが、第1話とか、最初の15分がつまらないと、すぐに投げ出してしまう。
これまで、いろんなアニメ作品を知人友人に「おすすめ」されたり、世の中でめっちゃ話題で人気!
なのでということで見始めたけど、このパターンで挫折する作品が私は実に多いんですね。

なので、この「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」もそこは心配しつつ見始めたのですが、第1話の30分弱。
ものすごくひきこまれた。
最近(といってもここ15年くらい)で、ここまで引き込まれたのは、「Noir」「MADLAX」以来かも知れない。
もう少し前だと「新世紀エヴァンゲリオン」の深夜一挙放送を録画したのをみたとき。あの感じだ。当時はまだVHSビデオでしたねぇ。
蛇足ですが、私はテレビシリーズの「エヴァ」は好きですが、その後に公開されたすべての劇場版はクソだと思ってます(ほんと蛇足だ

「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」、見始めたのは夜更けでしたが、一気に見てしまい、気が付けば日も高く昇った時刻でした。

この物語にもいろいろな伏線がはってある。
それらをいわば全部ネタバレされた状態でもし観ていたら、ここまではいろんな感動を味わうことはできなかったでしょう。
「初めて」というのは1回きりしかないのだ。
よい作品であればあるほど(「よい」かどうかは、見る前にはわからず、見たあとでなければわからないのですが)、この「初めてのときの感動」は大切にしたい。
その意味ではこの作品との出会いの仕方は、そうとう運がよかったかも知れません。


印象に残ったシーンや回。

最も泣けた話は第10話。
ヴァイオレットが、小さな娘とその母が暮らしている家に7日間の出張をして、あるひとに手紙を書くという話。
あとで調べたら、この回こそ「神回」といわれている回のようですね。まぁそうですよねぇ。

途中で「誰に手紙を書いているのか」までは察しがつきました。
が、ラストシーン、そういうお手紙を書いていたのかと・・すべてがわかって涙腺崩壊ですよ( ;∀;)

この回だけは1回目のあと、2回目を見返した。
1回目も泣けたが、2回目に「最初からそうと知って」見たら、言葉のひとつひとつ、すべてのシーンの意味が伝わって、涙なしでは見られないという。

ねぇ。

第3話。最初にこの物語の世界観、「感動しどころ」が最初に明らかになる回といっていいでしょう。
ひとの心がひとなみ以上にわからないヴァイオレットが、はじめて心の通った手紙を書くことができた回です。
それができるに至るまでのエピソードがとてもよかったし、宛先の兄がその手紙を受け取って読んだときのシーンもよかった。泣けた・・
専門学校で仲良くなるルクリアがとってもいい子でしたねー


第9話。少佐はどこかで生きていると思っていたが、亡くなった・・ということを知り激しく動揺し混乱するヴァイオレット。
戦争でたくさんのひとを殺めてきた過去を消すことはできない。いっぽうで今の自分はこんな代筆屋のような仕事をしていてもいい人間なのか。
けど、ここまでの、代筆屋としてしてきたことも消えることはないんだよと。そして立ち直り、力強く新しい一歩を踏み出す!
という話。
「届かなくていい手紙などないのだよ」という老配達員の言葉は次の第10話でヴァイオレットが言葉にすることになります。

第6話の古い天文台で古文書を写し取る依頼の彗星の話。
これはヴァイオレットへの恋ですわ。
けど、ヴァイオレットには既に「そのひとがいなくなるくらいなら私が死んだほうがいい」くらいの意中のひとがいることを知る。
これは失恋だ。
「おまえ、それはそいつのことを愛して・・」っていいかけたところで彗星がぶわあああっと極大を迎えてね。
星空を見上げるヴァイオレットの青い瞳には彗星が映って・・
彗星は200年周期で、一生に一度しか会えない出会いで、そしてすぐに遠ざかってしまう。
一期一会っていいますが、彼にとってヴァイオレットと過ごしたこの7日間もそういう出会いなのですよ。
ロープウェーで見送られるヴァイオレットの表情がこれまたよくてねぇ。そして切なかった。

第7話は劇作家の依頼で戯曲を書く話。
ヴァイオレットは超人兵士なので、忍者みたいに「沈む前にすばやく足を動かして水面に浮かぶ葉っぱを足場に水面を渡ることができる!」のかと思いきや!
さすがにそれはなく(いやそこではない

「大切な人と別れるということは、二度と、会えないということは
「こんなにも寂しく、こんなにも、つらいことなのですね

といってヴァイオレットが涙をポロポロ流して。ヴァイオレットが他人のために涙を流したのはこのシーンが初めてだったとおもいます。
この前の6話天文台の話で「寂しい」という感情を教わり、この7話で、そのひとを失う、別れるということのつらさにヴァイオレットはこころから共感することができたのですねー

そしてあのシーン。

「『おとうさん!』
「何千回でもそう呼ばれていたかった・・

ってね。
劇作家のおっちゃんそれを見た瞬間、思いが、ぶわーーーーーっとあふれ出したシーンがとてもよかった。泣けた・・
ここのシーンは「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を象徴する名シーンになってます。
アニメーションの絵、音楽、とにかくすばらしい。
こういうところの感動こそ、このアニメ作品の演出の強力な力、すばらしさのなせるワザですねー。

あとはやっぱり最終回の第13話ですかね。
最初はいいけど最後のほうはグダグダになったり、終わり方が苦しくてちょっと残念な作品とかってよくあるじゃないですか。
「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は、そこはきれいに終わってたとおもいます。

最後に書いた、ヴァイオレット自身が誰かに宛てて書いた初めての手紙。これもとてもよかったのではないでしょうか。

ここに紹介した回のほかも、一話完結短編エピソードの回が何話かありますが、ぜんぶよかった。
アイリスが故郷の村に帰省する話も、とある国の王子と王女が結婚する前の文通の話も、ぜんぶよかった。


すこしおもったこと。
これって単純に代筆業の話にはしてなくて、戦闘訓練を積んだ特殊部隊の超絶能力の兵士っていう過去。
「やたら美人でかわいい」「そして不思議」なヴァイオレットちゃん。
巨乳な胸の谷間を見せつけてくるスタイルのカトレアさん。

・・というあたりはアニメによくある設定(それもかなり無理のあるご都合主義な設定)だなあ、と思ったりもしますが、そういうのも含めて観る気にさせる、
観る気にさせて観てもらわないと何も始まりませんからね!
そのおかげで私みたいなヤツでも「挫折」しないで「つかみでぐいっと引き込まれガッチリつかまれて」最後まで観ることができた、というのがあります。

ヴァイオレットちゃんがまとっている独特な不思議な魅力はあれですね、綾波レイだ。Noirでいうと霧香。あんな感じの子です。
ひとはこういうのにひかれる生きものなんでしょうかね。


京都アニメーションも背景の絵の細やかさとかリアルで写実的な表現力とかがとてもきれいです。
そういう中でも特徴的なのは絵の色使いとか線の柔らかさというんでしょうかね。全体的な印象として柔らかく、暖かさを感じます。
ざっと京アニの代表作品リストを見たところ、見たのは「聲の形」だけでしたが(=aikoがらみなのでみた)、「聲の形」もそんな感じでしたよね。


話が進んで、いろいろなひととの出会いとかできごとのなかで、ほんとうに徐々に、ひとのこころや感情が理解できるようになって。
ヴァイオレットの表情がゆっくりとした速度で成長して、徐々に、柔らかくなっていく。ほんとうに少しずつ。これがすごいよかった。すばらしかった。
いつもはすました顏だけど、こころが動いたときに一瞬見せる表情がいい。

それがもっとも印象的にあらわれたのが第6話の天文台の話。
お別れの、遠ざかっていくロープウェーでのシーンでのヴァイオレットの表情。テレビシリーズでもっとも好きなカットです。
劇場版だと、船上から少佐の声を聞いて、デッキから身を乗り出して振り返る、あのときのカットがいい・・

実写映画ではここは俳優の力ということになるんでしょうが、これがアニメーション製作者の力だなあと思った。もちろん声優さんも。
ヴァイオレットの雰囲気にとても合っていたと思います。

これまでいろんなアニメ作品を見てきたと思うが、それらの中でも1番かもしれない(「秒速5センチメートル」と並ぶかもしれないくらいの)、とてもこころに残る名作と出会えたとおもいます。

星をつけるのが野暮なくらいの、文句なしの5つ★です。
おにおに

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