Kaji

怪物のKajiのレビュー・感想・評価

怪物(2021年製作のドラマ)
4.7
ずっと緊張感が持続して、目が離せなくなり大変ハマりました。
すごい面白いし、要所で熱演が入り役者・演出・脚本とどれをとっても精度の高い仕上がり。

田舎町の閉塞感とコミュニティの暖かさがどちらも苦しみを産んでいる前半から、一旦収束するかに思えて「まだ解決していない」真相へ向かう後半という構成。

何より感想に入れたいのは、何度もセリフで出てくる「法を超えられるのか?」という煽りをドンシク(シンハギュン)が入れるのですが、それによってジュウォン(ヨジング)が動揺しつつも接近していく描写。
このドラマが一筋縄で括れないのは、サスペンスのジャンルを使った「leap of faith」の物語ではないかと思うのです。
 leap of faith:は思い切った決断と翻訳されますが、超訳すると「飛び込め」かなと、沈没船からの脱出で手を掴むときに出たりします。
つまり、信じるか信じないか、それまでの自分を捨てるか、という最後の問い。と位置付けて↓。


原理原則を大切にして潔癖だったジュウォンが、それまでの自分の中の鉄則を捨てて、ドンシクの領域にダイヴすることで一皮剥け、その後輩の成長によってドンシクの膿も出る。

人間的成長を、非常にスリリングなサスペンスで太く濃い人間ドラマに仕上げていたと思います。

ある個人が内的な法を動機として動くことの是非と、法律で犯罪を形作り裁かないと安全さが保てない社会とそのオタメゴガシ、法律で裁かれない悪意、そして法律では犯罪になってしまう内的な法が混ざり合って、すごく社会的な(宮台真司的な)物語でした。
 また、警察という階級社会を舞台にその息苦しさと、法の責任とあるべき優しさを担った交番所長や、自己中心的な開発利権を目論む有力者、最初から法の外にいた人物、未解決失踪事件の家族、被害者、、とキャラクターの背景を多様に現していく脚本の手腕。
 しかもその一人一人が鑑賞者の方で容疑者化するハラハラ展開。
 
取調べや作戦会議的な寄り合いで、所々事件を整理してくれる親切なシーンもあり、こんがらがったり不十分なとこがないのに魅せるところは役者の演技が効いていて死角のないドラマでした。

参った。めちゃくちゃ面白かった。
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