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地下鉄道 ~自由への旅路~のBOONEのレビュー・感想・評価

地下鉄道 ~自由への旅路~(2021年製作のドラマ)
4.2
南北戦争以前の1860年頃のアメリカ南部。コーラと言う黒人女性がプランテーション農場から逃げ、秘密裏に作られた地下鉄道で各地を逃亡する。原作はアーサーCクラーク賞など多数の賞に輝く名作。監督はムーンライトのバリージェンキンス。rotten tomato では一時期100%fresh(現在は97%)など、評価が著しく高い等、非常に気になっていたドラマだった。

凄いドラマだった。
映像は美しく洗練されている。黒人の肌が鋼の様に光り、美しく撮影されていた。これは、映画「ムーンライト」に通じる。隙がなく圧倒される映像だ。
それと同時に、映像は凄惨で、残酷でもある。ドラマの視聴では、精神力をもの凄く奪われた。
あまりに凄惨な拷問シーンは精神力を奪う。日常で差別的に扱われるシーン等、怒りと悲しみが溢れて見続けるのが辛くなるシーンが多い。
監督は撮影現場にセラピストを常駐させたと言う。現場ではセラピストにはいつでもカットして良いと、許可を与えたそうだ。

このドラマでは、本当に地下鉄道が出てくるだけあって、SFフィクションではあるし、所々時代設定にそぐわないギミックも出てくる。例えば高層ビルのエレベーターはもっと後の発明だし、ドビュッシーの月の光も1890年頃の作品だし、なんならオーケストラ編曲は更に後だ。エンディングソングもマーヴィンゲイやマイケルジャクソン、グルーブセオリーやチャイルディッシュガンビーノなどが流れるくらいだから、フィクションと言うことを全く隠していない。ちなみに選曲はドライな感じでとても良い。(Spotifyにプレイリストあります)

ただし、このドラマに出てくる凄惨な事件は、実際に起きた事件がベースになっている。黒人を人体実験したのは、マリオン・シムズが有名だし、タスキギー梅毒実験も有名だ。リッチな黒人への腹いせに白人達が街ごと焼き払ったのは、タルサ人種虐殺。
この様な事件で、現実ではもっと酷いことが平然となされてきた事を考えると、このドラマはSFフィクションとは言え、物語の輪郭がよりくっきりと強調され、胸に迫ってくる。

コーラ役のスソ・ムベドゥの表情がとても良い。彼女の佇まいは怒り、絶望、争う強さを際立たせて、目が離せない。リッジウェイの複雑な内面も興味深かった。

第9話でクライマックスを迎えるが、息を呑む。胸を掻きむしられる様な感覚になった。
最終話は物静かに、創造の余地を残して終わる。わかりやすく明確には終わらない。
少し希望は持てるのか…視聴者に想像を委ね終わる。

現実世界でも、昨年以降、アメリカや世界各地でBLMやANTIFAの隆盛で暴徒による暴動が増えた。しかし、単なる破壊、略奪も同時に増え、互いに憎み合う風土が出来てしまった今。
非常に繊細なテーマなものの、巧みな演出で、視聴者の心に響き、心をえぐるドラマだった。
映像体験として、素晴らしかった。
割とスローに進むし、無言のシーンも多く、集中して観る必要があるし、重苦しくなる場面も多いが、おすすめしたいドラマです。今観るべき作品だと思います。
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