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わかっていてものERIのレビュー・感想・評価

わかっていても(2021年製作のドラマ)
3.6
これは今の時代のルッキズムと誰かを信じる恋愛物語。


なのではないかと思った。愛は信じられないけど恋愛したい女子とクズな男の大学生のラブストーリーというカテゴライズをして若気の至りで終わらせるには少し勿体無いので、個人的に本作をみて思ったことを整理してみようと思う。


ルッキズムとは、Looks(外見・容姿)とism(主義)から生まれた外見至上主義を意味する。と、Wikipediaには書いてある。容姿の良い者を高く評価して、逆に容姿が魅力的ではないと判断した人々を雑に扱うことをいう。

ルッキズムの問題は、容姿が魅力的ではないと判断した人々を雑に扱うことを主な問題として取り上げられることが多いけど、個人的には容姿が良すぎる人に対する必要以上の羨望による中傷や見た目からくる「決めつけ」の問題もとても重大な問題なのではないかと思っていて。

今回本作では、そのルッキズムの象徴としてソンガンくんがジェオンという役を演じた。彼の役所は特定の彼女をつくらず手当たり次第女の子に手を出すクズ野郎とされているけど、実際ドラマで登場する彼はただ必要以上にモテて女の子が勝手に寄ってくる。そして幼少期の寂しさから「来るもの拒まず、去る者追わず」、愛を諦めて今の自分の状況に折り合いをつけ執着しないように生きてきたただの男の子だった。(まぁ来るモノ拒まずがダメではあるんだけど。笑)

一方主人公のナビは、見た目はとっても可愛いのだけど初めて付き合った彼はとんでもなくモラハラな男で男を見る目がなくそれによって自分に自信を無くした女の子だ。

ドラマの中ではジェオンがクズ、クズって言われまくってるのだけど、個人的には本当にそうかな?と思うし、ナビは付き合うかどうかより彼を許して先に体の関係になってしまったこと、彼に触れることを止まれなかったことは、自分の選択なのではないかと思った。こういう時女性が傷つけられて男性がひどい!みたいな評され方をするけど、お互いが何らかの理由から相手と関係を作ったのだから、どちらかだけが悪いってことはないはずだ。

そう思ってジェオン視点で後半のナビの態度をみてみると、めっちゃ傷ついただろうなって思うもの。好きな人にあんな風に睨まれたら苦しいし、いつも問い詰めるようなことばかり言われたら痛い。それに周りも周りで、彼のことを噂ばかりして有る事無い事言いたい放題だ。顔がいいから得してるんだしって見方があったら大間違いで、傷つくよね人間だもの。そんなことが誰かを決めつけたりしていい理由にはならない。


二人が出会ったタイミングや最初の時間を振り返ってみると、本当は二人ともお互いの見た目に隠されたその中にある本質に気づいていたはずだ。(そして個人的には、好きな顔というのが当然あるのだから、見た目で誰かに惹かれることが全然悪いことだとは思わない。)

ジェオンにとってナビは、これまで出会ってきた女の子たちとは圧倒的に違って彼女の中に軸があることを直感的に感じ取っていたはず。実際、彼女に惹かれる描写では、作品を夢中で作る眼差しを見惚れていたり、最初に彼女を見つけた時の怒りと悔しさを抱えながら負けないように立つ彼女に釘付けになっていた。それを笑うことも馬鹿にすることもなく、必死に立とうとする女の子を見つけたのではないかと。それを綺麗だって思ったんじゃないかなって。

一方でナビも彼をかっこいいなと思っただろうけど、それだけじゃなくて一緒にいて楽しいとか話が合うなとか、そういう部分に癒されて救われていたのではないかと。当然ミステリアスで正体がわからないものに興味が湧いてしまうというのはよくある。女の子とのやり取りをみてもナビがジェオンを本当に嫌いになれなかったのは、彼がしてくれた優しさや同じアーティストを目指す立場として彼の作品にある圧倒的さを認めずにはいられなかったからのはずだ。


だけど、周囲には彼に対する「噂」が渦巻いて、そもそも男を見る目に自信がないナビは強くそこと対峙することができないし、自分の気持ちもずっとわからないままで、結果的に欲しいものは手に入らず思うようにいかない。「居心地がいい」と思っていたはずの二人は、とことんまで傷つけ合う。好きだという気持ちを信じられなくて素直になれないままだ。


ジェオンがナビと出会ってこれまでの自分が嫌になって変わろうとしたことはとてもすごい出会いだし、奇跡みたいだなと思う。(そっちの側面をもう少し描いても良かったかもしれない)

そういう意味で最後の二人のギャラリー展での会話は少し物足りなくて、もっと優しくても良かったのになと思ったりした。笑
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