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D.P. -脱走兵追跡官-のKajiのネタバレレビュー・内容・結末

D.P. -脱走兵追跡官-(2021年製作のドラマ)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

脱走兵を確保する憲兵のバディドラマのていだけど、各話取り扱われる社会問題や2014年という設定も全てがメッセージになっているような脚本でした。

DPでは脱走兵の確保が任務ですが、常に「助けに来た」と言います。
なんで、たまらなく嫌だったから脱走したのに?戻るのが助けになるの?って思いませんでしたか。

アンジュノ(チョンヘイン)も父親のDVでトラウマを持って、家庭から抜け出したくて兵役に出る冒頭で、家庭から抜け出そうとしない母親をどこか軽蔑しています。
 自己責任論と半々の思考をしているのですが、任務中に見るそれぞれの背景、兵役免除者、睡眠障害、ホストに貢いでいる女性、認知症介護、いじめ、自殺、、に触れるうちに助ける方法を模索し始めるわけです。

「助ける第3者」にジュノはなれるのか。

5・6話で最悪の末路へ向かうソクポン(チョヒョンチョル)は、性暴力も含めたあらゆる暴力でいじめを受けているのに、ジュノを気遣う優しい人です。ガンジーをもじったあだ名で呼ばれるソクポン、ガンジーは非暴力を掲げた人物なのでわかりやすい描写でした。

なぜ、優しくて人を攻撃しない思考の人が虐げられていじめに加担するまでになるのか、加害が起こっているのに傍観するのか、助けとは何か、とたたみかけるように各話に織り込まれた問いかけは、刺さるものが多く示唆にとみます。
 

一方、全話通して飄々としているホヨル(クギョファン)はお金には困ってなさそうで、部隊のいじめにも加担していません。
さりげなく自然に善良な倫理観を維持している彼は、変わり者っぽくて現実から距離を置いてるようにも見えます。
ヒエラルキーから抜け出す方法をジュノに教えてくれるポジションでもあり、抜けているようで核心部分は外さないホヨル。
彼は軍病院にいるところから登場しますが、捜査中に一度刺されているとセリフが入ります。だから映画館で刃物を出すソクポンの前で固まってしまったのですね。

キムソンギュンの上官も、待つべきは待ち、抵抗するところは抵抗するかっこいい人でした。

ハンジュニ監督の代表作「コインロッカーの女」は無国籍児を養子にして高利貸しを営む中国系移民の女性と娘の話で、裏社会を舞台に「抜け出せなさ」と抵抗を描いていました。この作品では女権家族の世襲とたった1人での抵抗が描かれます。社会的弱者がさらなる弱者を支配する物語で、家族の繋がりとは血なのか哲学の継承なのか、それは何か、なんで「いい人」が暴力を浴びてしまうのか、なぜ抜け出せないのか、という人間の加虐性への疑問は、今作と共通していると思います。


 舞台は2014年、セウォル号の事故があった年です。杜撰な救助や隠蔽体質が重大な海難事故に繋がりました。
プロローグに朴槿恵元大統領のニュース映像が流れますが、軍の人権軽視問題についての演説で、実際取り組みが実施されたようです。
朴槿恵は在任中、ブラックリストを作成し国家への批評・批判を含む作品を作る作家や監督、俳優も抑圧していたそうです。
 権力が正義の是非を狂わせてしまう抑圧の象徴として出したのでしょうか、チェスンシルゲート問題からろうそく革命に繋がり弾劾されました。非暴力と平和的デモが権力トップをおろした経緯がインスパイアされているのかと思います。





引用作品やオマージュがたくさんあったので羅列します。
・「JSA」:夜警中のホヨルがサングラスをかけるのは、この作品のオマージュかなと。イ・ビョンホンがサングラスをかけて警備する姿と重なります。
南北分断を軸に分け隔てのない友情がイデオロギーによって裂かれる様を描いて、ラストクライマックスがDPと重なります。

・「殺人の追憶」:トンネルで3人が組み合うシーンはオマージュかなと。
犯人を取り逃がすラストを掛けたのでしょうか。

・「タチャ」:モンティホール問題の時チラッと引用されます。
タチャはポーカー賭博の話ですが、父親の因縁とジャイアントキリングを仕掛ける主人公の話です。映画もあります。ホヨンマンは原作漫画作者。

・「国際市場で会いましょう」:映画館の追跡シーンで上映されている映画
韓国の男性の一代記、1人の男性にかかるプレッシャーと時代背景を重ね合わせた名作です。常に誰かを助けているファンジョンミンが泣かせてくれます。

・「ワンピース」:ソクポンがいたアニメサークルであだ名をゾロ、友達はルフィと名乗っていたと出てくる。説明不要の日本の海賊ダンジョン漫画。
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