もちお

ONE PIECEのもちおのレビュー・感想・評価

ONE PIECE(2023年製作のドラマ)
4.5
原作リタイア勢にこそ試す価値ある傑作。

ウェットな浪速節が鼻についてた人には見やすいアレンジ。

もはや説明不要の国民的覇権漫画。人気漫画の実写化と聞いて「う...頭が....」となる人も多いでしょうが、そんな呪われた通説を痛快にひっくり返す傑作。もちろん原作に多大な偏愛をお持ちの方には受け入れられない部分もありましょうが、少なくとも「実写などなかった」レベルではなく未読勢にはしっかりと楽しめるエンタメだし、途中で原作リタイアした自分でさえも感動すら覚える再現度。任侠浪速人情劇なオリジナルを最大限尊重しながらも「アウトローが居場所を獲得する物語」という鉄板ピクサー芸のような安定感に膝を打ちます。導入のコビーの使いかたには感心させられました。ピクサーのキッズアニメのようなストレートさにホロリとさせられます。

日本制作の実写化はどうしてもコスプレ感が出てしまいがちですが、これはもう完全にファンタジー世界に溶け込んでて、どう考えてもトンチキになってしまうゴムゴム描写すらも嫌味になってません。衣装はもちろん美術も大変素晴らしく、トンデモまんが世界にもかかわらず臨場感や存在感を感じられ、しっかりと没入感があります。

原作で多用されるコマいっぱいの顔面ドアップでキャラがギャン泣きする演出にポルノ感を感じて辟易してた感性の持ち主や、原作の名シーンとされる場面が逆にクサくてウザかった人、じっとりと生々しい邦画よりも洋画を好む映画好きには素直に楽しめる作りかと。深夜アニメのようにキャラの心情を逐一モノローグで解説されたい人には物足りないのかもしれません。

原作を連載当時から追いかけてる人にとっては、ゾロはともかくサンジやウソップまでもただカッコイイだけなので深みがないと思われるかもしれませんが、長年育んできたキャラ愛が偏見になってるだけだと思います。当時からしてジャンプな記号でデフォルメされたわかりやすいまんがキャラだったと思いますし、20年を超える連載で積み重ねてきた読者自身の心にあるキャラクター像は、いくら金をかけても他人が再現できるはずがありません。キャラ変ではなく切り取る角度が違うだけなのだと思います。この素晴らしい映像を見て、よくある原作愛の無い小遣い稼ぎ中抜き企画だと誰が思えましょうか。

ゾロがあまりにもゾロすぎる。シンケンユーはもはやワールドクラスなアクションスターといっても過言ではない。この流れだとキアヌのようにまんが映画俳優になりそうですが、それでもこのまま世界で活躍して欲しいと願う逸材。どこからみてもカッコいい。ヒキも背中もどの角度から見てもカッコイイ。立ち姿も殺陣も何から何までカッコいい。「まあでも流石に口に咥えた三刀流はギャグになっちゃうかな〜」なんて思ってたのですが、なんとしっかりとカッコいい。ここでもう完全に前のめり。顔はどうみても日本人だが存在感はすでにグローバル。海外キャストに負けてないどころかルフィすらも喰らう勢い。ローリングで剣がペコっと折れるのには笑ったけど。日本ならNGカット確定なのだがそこはまあ「文化が違う」のでしょう。

自分のペースで読める漫画と違って映像作品は間の取り方が命取り。しかし漫画のようなテンポ感でサクサクと進行。現代劇ならあきらかにおかくて「え?おまえいつからそこにいたの?」みたいなツッコミどころ満載のアニメっぽい編集を多用するがこの世界観なら許される。その思い切りのいい編集が効いてるおかげで間延びせずに駆け抜けるスピード感が心地いい。

ゲーム界隈では巨塊を振るう長身細身なイケメンホストが世界でも容認されてきてはいるが、映画界ではやはり世界を数うのは強面マッチョばかりな現在。ピクサーやマーベルなどの正当なヒーローものではないにしても、マッチョなキン肉マンでも異形モンスターでもない細身の伊達男たちが大活躍する物語が世界的に受け入れられたとしたら、間違いなくクールジャパン戦略の今後のターニングポイントとなるはず。AIで映像化のコストが下がり続ける今、日本で言う団塊の世代などの世代交代が完了すれば、世界中でアニメネイティブの世代がビジネスの中枢となることで日本がIPビジネスで一発逆転できる可能性は決して低くはないはず。結局みんなジブリなんかそんなに好きじゃなかったわけだし、ピクサー系も飽きられた。現在量産されてる新海コピーはいっちょかみおじさん委員会の犠牲者でしかないが、世代交代のその時までは現場には刃を研ぎ続けて欲しい。あと数年で日本のコンテンツが世界で猛威を振るうようになるでしょう。その栄光なる出発の旗印として本作以上にふさわしい作品はない。まさに歴史を塗り替えた傑作であることを、数年後においても自ら輝き続けて証明していて欲しいと願う。原作ネタは腐るほどあるのであとは契約交渉のプロの囲い込みが今後の課題かな。

感嘆脱帽アメージング。尾田先生に国民栄誉賞を。
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