Kaji

静かなる海のKajiのネタバレレビュー・内容・結末

静かなる海(2021年製作のドラマ)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

かなりよくできた脚本で抑えた演出ながら、面白かった。

韓国のエンタメが攻めてこなかったスペースSFですが、干上がった漢江で一撃でわかる地球環境と、宇宙空間の描写はとてもシームレスなグラフィックで説得力があり、「絵で見せる」部分には満足。
ただ4話で無重力空間でそれは無い、という事故シーンがあって少し冷めましたが、それは細部で全体的な骨子の優秀さが際立ちます。


設定上、地球も宇宙空間も環境によって人体自体が制約となる基本ラインと、そこを突き抜ける存在で希望を描いてあって、その上に人間の知性と科学への信頼が含めてあるので、抑制の効いた演出や一人一人命を落としていく展開ながら地味さが無いふくよかな作品でした。


原因不明の事故によって閉鎖した月の「パレ基地」から研究サンプルを持ち帰るミッションに着任するクルー。
次々とわかる不審点の回収とペドゥナ演の博士が究明していく事故の真相とサンプルの実態から、「ルナ」という存在の発見。。

閉鎖空間と謎の感染症サバイバル、真相究明のサスペンス、キャラクターの背景、とたくさん盛り込まれているのでかなりの没入度がありました。


「アビス」「エイリアン」「メッセージ」の地球外生命ものと、「アポロ13」「ゼログラヴィティ」などの宇宙空間描写、またちょっと野生児もの、そして「コヴェナント」「プロメテウス」のようなブレない女性科学者など、既存の名作からコラージュしたハイブリッドな下地とも読めます、「水」をキーにしたアイディアは展開を強く引っ張っていたと思います。






ここから完全にオチネタバレ↓

クローン人間で人体実験をしていたという、人間の業と化学技術、生命倫理をモチーフにして環境問題をテーマにしているのは意欲的だし、「月の水」から植物が育って生体と同期して増量していくという設定が最後基地内での洪水という展開になるのですが、植物は水だけでなく土もないと育ちません。あと、水柱たつかね。一瞬で水滴になって霧みたいに浮遊する気がするんだが・・・魚のところで水量が安定していたり、第一感染者のクルーが死に至るところではもうちょい詰めて欲しかったなとも思います。
すんんげえ深い井戸やタンクみたいなのに、擬似生物をぶち込んで月の水を培養したりはしなかったんだな。とか。

でも設定上の科学レベル自体をうまく隠すことで、上手にそういった不備を許す余地を作っていたとも思います。

 前述もしましたが、コンユ隊長の場外エレベーターで宙吊りになるところは、無重力空間なんじゃねえの?ってとこですごい違和感ありました。落ちない。浮かぶんだ〜。
 また、詳細がわからない「ルナ」が宇宙空間で生きていけるのなら、基地内の環境は彼女にとってすごく過酷だったのかな、あんなにバタバタ走れるんだろうかとも思った。月の水さえあれば食事を摂らないで済むのかとか・・・
5年前の事故から成長していないのはクローンだからか・・・とか。

しかしながら、そんなことは、これからサンプルと検体を持ち帰ったペドゥナ博士たちが解明するであろうことに期待して終わる流れ、最後にルナが見せた優しさと幼い知性。好きでした。
 もうこれは、ジブリ的というか少女が世界を超える救世主というオチよりも、人間であるペドゥナ博士たちが成熟した人間の知性で地球を救済していくんだ、というところと、特殊な生態を生活環境から切り離さないという環境保護の振る舞いは至極納得のいくラスト。
 それと、寄生虫のようなウイルスのような「月の水」の実態のわからなさが最後までわからないところもすごい良かった。妙な御託が並ぶよりは全然良かった。
わからないから知りたい、解明したい。これが、地球環境を救うかもしれない、という期待を持ち帰る科学者と、娘を救いたい父、献身的な医師という3人が生き残ったことがメッセージになるんだな。
Kaji

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