sea

モアザンワーズ/More Than Wordsのseaのネタバレレビュー・内容・結末

モアザンワーズ/More Than Words(2022年製作のドラマ)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

誰の気持ちもわからない。誰にも共感できない。だけど辛い。最終話の永慈の回想シーン、槙雄の永慈を呼ぶ声が繰り返されるところで、涙がブワッと出た。「本当はずっと三人で」。戻れないあのとき、愛おしい時間。切なくて、苦しくて、でも目の前には今生きている現実があって、結局今を生きるしかなくて。まだ恋だとか愛だとか何もわからないような二人が付き合ったことも、その二人とずっとこれからも続く永遠の関係を信じて美枝子がした"子供を産む"という決断も、他人からしたら若気の至りという言葉で片付けられてしまうのかもしれないけれど、当事者の三人にとってはそのときは目の前のことで精一杯で。目の前の大好きな愛おしい人たちと、これからも続いてほしい関係のために必死だったんだと思う。

映像とか、ドラマの雰囲気とか、毎回定点カメラで遠目からただ撮っているようなエンドロールとか、主題歌とか、好きな部分も沢山あった。でも、全体として私はこの作品をそこまで好きにはなれなかった。若いからこその過ちみたいな、他人から見ると「どうしてそんなことをするの」という決断を、きっと人生において誰もがしていると思う。何かに必死になっているとき、大抵の人は主観的にしか考えられなくなるだろうし、周りが見えなくなる。そういう経験が誰しも、そして私にもあるからこそ、どうしようもなかったのかもしれないけれど、「どうして」という思いが拭えないまま観ることが辛かった。命を道具みたいに、関係を終わらせないための手段として安易に「子供を産む」なんていう決断をした美枝子にも、ずっと他人事みたいな態度をとって結局逃げ出した槙雄にも腹が立つ。まだ二十歳にもなっていなかった二人。私もまだ若いけれど、二人に対して「なんて子供なの」という思いが消えなかった。永慈が責任感があって慈悲深い人間だったから良かったけれど、結果良ければ、みたいになっているけれど、どうしても思ってしまった。でも「それで幸せなの?」なんて思ったとしても、その決断をした以上、その人生を生きるしかないわけで。それも含めてリアルなのかもしれないなんて思った。

永慈の父親には一番腹が立った。子供が生まれたと知って病室に入って最初の一言「すみませんでした」って、なに?何に対して謝っているの?あなたが逆上して頭ごなしに反対なんてしなければ、そもそもこんなことは起きなかったかもしれない。ずっと関係が続くなんて難しいけれど、きっとこんな残酷な形では終わっていなかった。信じられない人間性。子供に会う資格なんてないよ。結局この人の思い通りになってしまったことが悲しい。国が違うことでどうこうとか、差別みたいなことを言いたいわけじゃないけれど、アメリカの友だちの話なんて、時代錯誤や文化の違いが過ぎるよ。悲しい、ムカついた。

槙雄みたいな人間っているよなと思ったし、ああいう人間に惹かれる人がいるのもわかるけれど、私は槙雄のことがずっと好きになれなかった。ぼろくそ言います、ごめんなさい。猫みたいなのは気分屋だということだし、何を考えてるかわからないのは人に考えることを任せて自分はそこまで考えていないからなのかもしれないし、結局朝人とそういう関係になったのも、本当に朝人のことが好きなのか疑問だった。逃げた罪悪感だったり人肌恋しさだったりを埋めるためにしか思えなかった。三人で過ごした時間が大切だったからこそ苦しんでいるのはわかるけれど、だとしたらもう少し誠実に向き合えたんじゃないかという気がしてならなかった(主に子供を産むという決断をする前)。元々永慈の親に反対されたのは「普通に子供を産んで、親としての幸せを味わってほしい」と言われたからなんだから、永慈の子供じゃないと意味がないんじゃないのか。美枝子に段々と優しくなる永慈を見ていられなくなったというのはわかるけど、わかるけどさ。だからこそ、槙雄を中心に描く後半にはあまり引き込まれなかった。朝人の存在もそこまで必要だったのか、疑問。

前半の三人の演技が自然で、そんな三人が作り出す空気感がとても素敵だったからこそ、後半は少し残念だった。再会したシーンは、題名そのままというか、言葉では表せない言葉以上の感情が、それぞれの表情に出ている感じがした。藤野涼子ちゃん、大人っぽいけれどたまに見せる表情は子供みたいに幼くて、とても素敵な女優さんだなと思った。永慈役の中川大輔さんも、優しさが表情や言葉から滲み出るような演技で、とても良かった。青木柚くんも、元から槙雄みたいな性格なんじゃないかと思うほど自然で、人を惹きつける演技をするなあと思った。私が自分の過去の過ちだったりをズルズルと引き摺る人間だからこそ、こういう「どうにもならない過ち」を描いたドラマに対して、少し苦手意識があるのかもしれない。でも観てよかった。「ずっと」や「永遠」なんてないけれど、そう思えるような関係を築けることは人生においてとても幸せなことだと思う。そういう永遠には続かない時間を大切にして、噛み締めて生きていきたいね。
sea

sea