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イルマ・ヴェップのMCATMのレビュー・感想・評価

イルマ・ヴェップ(2022年製作のドラマ)
4.5
こちらに書きました。
https://www.rippingyard.com/post/JeylWHh4MNr5KVv0lE0u

アサイヤスの本当にやりたかった『イルマ・ヴェップ』が見えてきて興味深い。フイヤード『レ・ヴァンピール 吸血ギャング団』を現代的に書き換えながら、丁寧に進めていく様が存分に確認できる。オリジナルにあったいくつかの重要な要素はより複雑にその形を残しているが、イルマ・ヴェップを演じる主人公がアリシア・ヴィキャンデル演じるミラ(Miraは、Irmaのアナグラム)に代わり、キャラクターに引っ張られるように物語の重力も変化する。

この映画は、どこへ向かうのか。当然、オリジナル版の展開が補助線となる。このドラマでは「オリジナル版が遂に成し得なかったことを如何にして成すのか」という問いにいよいよフォーカスする。結果、オリジナル版が絶望の末に産み落としたあの奇跡のような混沌はアッサリと塗り替えられるが、それは現在のアサイヤスとサーストンの限界をも提示してしまう。この作品の一つの到達点であるこの「みっともなさ」は、感動的ですらある。

このドラマが無謀にして勇猛なのは、到達点を超えた後の世界を収めたところにある。ここに描かれたある種の諦念、ドラマの中でルネの語る「魂」が刹那的な「花火」であるという「諦め」。監督=創造主が、フイヤードの『レ・ヴァンピール』に、ジェイド・リー=マギー・チャンに、そして「イルマ・ヴェップ」に固執し囚われようとも、作品が完成すれば、人々は散り散りにどこかへ消えてしまう。

そんな諦念に包まれたこの物語に、慎ましやかに配された若者たち。特に(モデルが誰なのか一目瞭然に感じてしまう)デヴォン・ロス演じるレジーナのような、純粋で情熱的な芸術家たちに、ささやかな希望を見出すことが出来るだろう。
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