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初恋、ざらりのmaoのレビュー・感想・評価

初恋、ざらり(2023年製作のドラマ)
4.2
軽度知的障碍を持ち、強い劣等感とともに生きる有紗が、経歴を偽って就職した運送会社で上司・岡村と出会い、はじめての恋をする物語。


この作品を観ていると、まさしく心が「ざらり」とする。

第1話から、自分を必要としてくれるならと男に搾取されることを諦めて受け入れてしまう有紗の姿が描かれ、かなり心をえぐられる。

職場の同僚たちの有紗への拒絶的な反応は、あまりにもリアル。そんな中、へにゃっと笑いながらやさしい嘘で有紗の心を守り続ける岡村のことを、好きにならずにいられるわけがない(わたしにも経験がある)。

しかしこの作品がとても誠実だと思ったのは、有紗の身の上を知った岡村の戸惑いや罪悪感をしっかり描いたこと。

そして、有紗の友達である友ちゃん(同じく障碍持ち)が「アイドルになりたい」という夢を利用されて搾取されかけるエピソードは、同じように丸め込まれていいようにされてしまっている人が一体この世界にどれだけいるのか、考えさせられてしまう。


「頑張っても、頑張っても、できない」

有紗のその苦しさが分かる。

頭がいっぱいいっぱいになって、もう回らなくなる苦しさが分かる。何も聞こえなくなる、何も分からなくなる苦しさが分かる。誰かのやさしさに傷ついてしまう苦しさが分かる。みんなができることが自分にはできない、その苦しさが分かる。

すごくしんどくて、観れば観るほど心がぼろぼろになるのに、最終話ではまったく温度の違う、もっと切実で、胸の奥底から滲み湧いたような涙が出た。

有紗の不安はきっと消えることはないし、岡村だって何度もヘロヘロになるだろう。喧嘩になって、実家に逃げ帰った有紗を岡村が迎えに行き、「一緒におうちでご飯食べよう、コンビニで好きなものを好きなだけ買おう」と懇願する日がまた来るかもしれない。

それでも、幸せそうなふたりを見ていたら、ほかのすべては取るに足らないと思えた。
mao

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