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8番目の感覚のmidoredのレビュー・感想・評価

8番目の感覚(2023年製作のドラマ)
4.0
大学のサーフィン同好会を舞台に、社会に出る前の若者たちの不安と恋愛を描く韓国の青春・BLドラマです。BLとしてはよくある話なのに妙に面白い。こんなドラマはあまり見たことがありません。

まず映像がやたらとおしゃれなのです。2人が仲良くするシーンも生き生きとして上手いし、色味にしろライティングにしろ構図にしろ、すべてが「絵」として成立していて、見ているだけで満足感がありました。ついでに言うと主人公が描いたという体で部屋に飾ってあるイラストもなかなか良いし、8を横にした無限♾️をすかしてみる夕焼けの海というオープニングもかっこいい。

音楽のチョイスも上手いのですね。メインテーマも懐かしくカッコいい。絶妙なタイミングであえて演歌を入れてみたり、至福の瞬間にメランコリックな曲を入れたり。歓楽極まりて哀情多しでしょうか。音楽にもいちいち痺れました。

おかげでお粗末すぎるセリフや無理な展開があってもすぐにどうでも良くなりました。いつもだったら速攻で冷めてしまうところです。

サーフィンをしながら見上げる波間の空の清々しいこと。新しい何かが自分を待っているような、あの若々しい感覚。海辺の夜明かしもシルエットのキスも、今まさに恋愛という未知なる世界に足を踏み入れようとする2人の心の震えがダイレクトに伝わってくるような撮り方でした。ロマンスの切なさとはまた別の良さがあるなと思います。

男女の境なく語り明かして友情を育む様子なども大学生ならではの風景として懐かしいし。

サーフボードと身一つで大海に挑戦するがごとく、まだ見ぬ世間の荒波へと歩みだす若者たちの姿に、あれこれ遠い思い出を刺激されるドラマでした。

もしかしたらこれはサムギョプサル屋の女将くらいの中高年に向けたノスタルジードラマだったのかなとも思います。あの女将は、バイトたちにキムチチゲと焼酎をふるまい、話をせがみながら何を見ていたのか。若い頃の自分自身なのではなかろうかと。

甘酸っぱくボーイズがラブする物語が終わった後に心に残るのがサムギョプサル屋の女将というのもちょっと異色でした。実験精神も感じさせる面白いドラマでした。
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