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カーネーションのakのレビュー・感想・評価

カーネーション(2011年製作のドラマ)
4.3
前半は女性の自己実現ドラマとして、最高の出来であった。自然の摂理のごとく女性の自由や力が弱い中、糸子はこの環境に疑問を持ち抗っていく。また、彼女は洋裁と出会い品格と誇りを与えることになっていく。洋服を着るということは女性の先頭を走るということで、それを与える糸子は時代の先導者だ。
そんな糸子だが、実家は呉服屋で祖父の家は金持ち、それに加えて性格は勝気でこの時代の先頭を走るにはこれぐらいの能力がなくてはならないと感じる造形である。

戦争との向き合い方もとてもおもしろかった。人々やファッションが次々と消えていく中で、空襲は増えていく。だんじりの人手が足りなくなることやミシンの拠出など日常に戦争が侵入していく感じも新鮮であった。また、戦争中だけでなく戦争後も不幸の影は覆っていく。その筆頭が安岡家であり、彼らが立ち直るには時間と他者の介入が必要だったと感じる。大分時が経て安岡玉枝が気づいた勘助は傷つけた側だったという発言がとても印象的である。

勿論、周防さん登場回は最高であった。ここにも女性問題や戦争の後遺症の面影が見える。勝さんの不倫は許させれるのに糸子のそれは許されないし、周防さんにも家族の事情がある。外しても踏みとどまっても人の道と進言されるほどに通じあっていた二人だが…。これも時代や女という不条理に負けたという一面があるのも事実だろう。その後の人生でこの出会いも肯定される点は感動した。

一番ドラマとして素晴らしいと感じたのがラストパートだ。イケイケで走っていた糸子はついに時代についていけなくなってしまう。この時間の経過を感じる描写はドラマとしては新鮮であるが、ドラマでしかできないことだ。多くの登場人物はいなくなっているが、そこにいると感じさせてくれる演出も見事だ。時代の先頭から外れ、身体も弱っていく糸子だが若者と歳を取ったからできることを行っていく。また、歳をとると奇跡をみせる資格があるという発言も登場する。歳を取ることをポジティブに捉えているメッセージの数々であった。

善作も面白いキャラであった。一見家父長制の筆頭のような性格であるが、彼の中でこの時代の男性観と戦っていたことが分かっていく。また、彼の行動と歳を取った糸子の行動が重なっていく点も面白い。
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