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ザ・パシフィックのipiのレビュー・感想・評価

ザ・パシフィック(2010年製作のドラマ)
3.8
近距離の戦闘が多いせいか、「バンド・オブ・ブラザーズ」よりハッキリと人を殺したことが認識でき、戦争の残虐性がより前に出ている。日本人としては非常に複雑で、機関銃で次々と日本兵が撃ち殺されていく場面は見るに堪えない。

制作サイドはなんとかバランスを取ろうと苦慮しているように思うが、今回は生存者のインタビューが差し込まれないせいもあり、ただ本当に起こった歴史的な事実という重みよりはドラマ性が際立ってしまっている。そのせいか、英雄性や正義のための戦争というイメージが前に出すぎてしまっていて、視点が非常にボヤけている。新聞の一面に取り上げられて、わずかながらそこに意味を見出してしまうシーンを入れるのはかなり危うく感じた。

当時の価値観や考え方が台詞やキャラクターに反映されているのは正しい姿勢だが、戦争を現代の視点で捉え直さないとわざわざこの布陣で作る意味はないだろう。そういう意味で、作劇として上手いかは別として、沖縄戦における急な心情の変化はあったにはあったのだが…。しかし、彼女がアメリカ兵に対して好意的な感情を持っていたとはとても思えないので、表面的には感動的なあの行動もかなり自己中心的なものに思える。

第二次世界大戦が正義のための正しい戦争だったと信じて疑わず、その後も朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガン侵攻、イラク戦争などアメリカは絶えず他国に対して同じような行為を繰り返してきた(2022 8/2にバイデン大統領がアルカイダ指導者の殺害を発表し、正義を実行したと宣言した)。

そもそも正義の戦争などは存在しないのに、アメリカはいつまでその幻想に囚われ続けるのか。この作品はそこに疑問を投げかけるにはあまりにも弱腰で、「バンド・オブ・ブラザーズ」では絶対悪のナチスであるはずのドイツ兵にも多少の尊厳が残されていたのに対し、日本兵は相変わらず奇異な存在として描かれている。

隠そうとしてもこの作品の端々から滲み出てくる白人中心主義は、一体何なのか。リベラルな顔をした作品ほど、そこを完全に消し去ることはできずに目立つことが多いので余計に問題の根深さを感じる。

もちろん大前提として、日本人は原爆の被害者であるだけでなく、アジアの各地で日本軍が広めた思想や行った蛮行は史実として受け止め、反省し、考え続けなければいけない立場ではあるが。

さらに、「バンド・オブ・ブラザーズ」はイージーカンパニーに視点を絞ることで見やすく作られていたが、今回はたびたび挟まれるメロドラマなどもあり、構成があまりうまくいっていないし、それぞれのドラマが結びついていない。

最終話の展開もいわゆる普通の感動作に落とし込まれてしまっていて、アメリカ人が観ても結局は安心できそうな着地だなと思ってしまった。スパイク・リーがアカデミー賞を獲った「グリーンブック」の生ぬるさに対して怒っていた気持ちが少しだけわかる気がする。

Apple TV+で制作が決まっているこの座組みの第3弾「Masters of the Air」は空軍の話のようだ。性的疑惑が持ち上がっているキャリー・ジョージ・フクナガが何話か監督をしていて、今をときめくオースティン・バトラーやバリー・コーガンらが出演するそう。

私の祖父も零戦のパイロットとして従軍した経験を話してくれたが、いかんせん子どもの頃はあまり興味が持てなかった。10年以上前に亡くなってしまったのでもう話を聞くこともできないのが悔やまれる。
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