TB12

ボクらを見る目のTB12のレビュー・感想・評価

ボクらを見る目(2019年製作のドラマ)
4.2
1989年4月19日の夜ニューヨークのセントラルパークで起きたレイプ事件によって濡れ衣を着せられ逮捕されてしまった5人のアフリカ系とラテン系少年達のお話。

実話を基に作られてるからお話自体は最初から分かった上だけどそれでも良く出来ていて完成度の高いドラマだった。

たったの4話しかないけど1話辺りの時間が1時間以上もあるからかなり濃い。

そもそも何故彼らは不当に逮捕されてしまったのかと言うと
そこにはもちろん人種差別などの問題があるんだけど実際に当時のセントラルパークは黒人やラテン系のギャングが夜な夜な徘徊をして悪さをしていたのは事実なんだとか。

劇中でも出てくる"ワイルディング"と称して犯罪行為なんかを頻繁にしていたと。

そんな事もあってかこの事件が起きた時には警察も検察もメディアも間違いなく彼らが犯人だと思ってしまったのだろう。

そしてこの事件がここまで大きくアメリカで当時報道された理由の一つとしてやはり被害者女性の人物像も外せないと思う。

ブロンドの白人女性でイェール大学を出たのち大手投資銀行に勤める超の付くエリートだった事が間違いなく関係しているでしょう。

この被害者女性と言うのは劇中の通り瀕死の状態に陥り裁判以降は滅多に人前に出てくる事がなくなってしまったんだとか。
それでも2003年には自伝を出版している。

その著書の中では事件の捜査や裁判からは距離を置く姿勢を見せていたそう。

それよりも彼女が強調していたのは事件が起こった1989年4月の1週間だけでも彼女以外にも28人の女性がレイプの被害者になったにも関わらず
彼女の事件だけが大きくクローズアップされそれ以外が全く報道されず直ぐに忘れ去られてしまった事を悲しんでいたんだとか。

現在の被害者女性の方は自分と同じことで悩む人に向けてスピーチをしたり暴力介入プログラムにおける性的暴力および脳損傷の犠牲者と協力したりと立ち直って人の為に尽くしているそう。

被害者女性の人生や肉体的精神的に負った一生癒えない傷はもちろんだけど
冤罪逮捕により10〜20代という貴重な時間を奪われレイプ犯罪者としてのレッテルを貼られた彼らの被害も計り知れない悲劇。

この事件最大の誤ちはNY警察による杜撰なでっち上げ捜査であり
そして彼らが犯人だと裁判で暗躍したあのブロンド白人のリンダ・フェアスタイン検察官でしょう。

ちなみに実際の彼女も劇中そっくりのブロンド白人です。

当然この事件って中々古いのでアメリカでもNetflixのコアな視聴者層であるティーンは知らなかった人も当然多かったみたい。

だが今作が配信されたちまち話題になった事で(配信初日の再生数が史上最高をアメリカで記録した)再びこのフェアスタインに怒りの矛先が向いてしまったのだとか。

現代はSNS社会ですから速攻で彼女のアカウントは攻撃され大炎上して全てのアカウントを閉鎖する騒動に。

やり過ぎでは?と思うかもしれないがそもそもこの事件以外にも彼女には黒歴史があるのだ。

事件後に様々な犯罪小説で荒稼ぎする一方あのmetoo運動のきっかけになったハーヴィー・ワインスタインに対するセクハラ容疑を訴えた女性被害者の口封じに一役買っていたことが明らかになっている。

それでもって今作が配信されたタイミングで自分の描写が悪意に満ち過ぎてると声明を出した事によって上の炎上騒動になったんだとか。

騒ぎはSNSだけで終わらず彼女が執筆した犯罪小説の出版社に対してその出版と取扱い停止を求める署名運動なんかも起こったそうで
僅か数日で集まった署名数は11万件以上(現在はもっと凄いかも)
これを受けて出版社はその停止処分を受け入れたそうです。

そしてまたまた更にフェアスタインが役員を務める複数のチャリティへの寄付停止の呼びかけも始まり
これを受けて少なくとも2つのチャリティ役員に加えて母校ヴァッサー大学の取締役も辞任する羽目に。

セントラル・パーク・ファイブのメンバーや世論の言い分としては「たとえ30年前の事件であってもリンダ・フェアスタインは自分の犯した過ちを認め謝罪と償いをするべき」というもの。

これだけでも分かるように今作が配信された事によってとんでもない論争がアメリカでは起きたのです。

時を経てもこうして事件が注目され裁きを受けなければならない人物にスポットライトが当たるのは良い事であると思う。

この検察官が早くに過ちを受け入れて謝罪してればこんな事にもならなかったのに…。

ちなみに2002年に有罪判決が覆された後も5人の彼らは何らかの形で事件に関わっていると言っていたそう。
そら炎上して当然ですわな…。

しかも更に面白いのはこの検察官を演じた女優と言うのが
ちょうど今作が配信されるぐらいのタイミングで娘を名門大学に裏口入学させてた事が発覚して刑の言い渡しを待っていた頃のフェリシティ・ホフマン。

元の検察官が曰く付きならそれを演じた女優までプライベートに問題を抱えてるってもうとんでもなくカオスな状態。

スキャンダルの話ばかり書いたけどもちろんドラマ自体の完成度も高くて素晴らしかった。

コーリー役を演じたジャレル・ジェロームはエミー賞で主演男優賞を獲得している。
最後のエピソードなんか特にそれも納得の素晴らしい演技だった。

とにかくあらゆる論争を巻き起こした問題作と言えるドラマだと言う事だ。
TB12

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