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BOSCH/ボッシュ シーズン7のStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

BOSCH/ボッシュ シーズン7(2021年製作のドラマ)
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このレビューはネタバレを含みます

LA市警刑事ハリー・ボッシュシリーズの最終シーズン(本シーズン後、ハリーは私立探偵になり、『ボッシュ: レガシー』としてドラマは継続)。

他のシーズンが10話編成なのに比べると、2話少ない8話構成。

本シーズンで扱われる事件は主に以下の二つ。

1. メキシコ人居住者の多い集合住宅で、麻薬密売絡みの放火事件が起こる。10歳の少女ソニア("タマラの少女")、出産予定の女性を含む5人が亡くなる。放火を指示した主犯のペニャは、組織(エメ)同士の犯罪の証人としてFBIの保護対象となったため、市警の方で逮捕できないことにボッシュは憤る。
2. 弁護士ハニー(マニー)・チャンドラーと彼女の事務所でインターンをするマディ(ボッシュの娘)が、インサイダー取引の暴露を恐れた金融界の大物カール・ロジャースに命を狙われる。

事件ではなく登場人物周りのサブプロットは、以下の通り。
1. 前シーズンでジャック・アヴリールを射殺したJ. エドガーが、罪悪感からボロボロになる。いい感じだった本部のジョーン・ベネット刑事や元妻、息子たちとの関係にも支障を来す。
2. 本部長のアーヴィン・アーヴィングが、未熟児で生まれた子供の世話をしながら、2期目を目指して市長を脅したりFBIと取引したりする(←ボッシュが組織に絶望する直接の原因)。
3. ボッシュたちの直属の上司であるグレース・モレッツが、署内のパトロール巡査たちのなかでも"インセル“(involuntary celibate)として行動するタチの悪い若者たちの標的になる。

シーズンが始まったらボッシュがいきなり判事のドナ・ソベルと付き合ってたので驚いた。FBI、刑事、制服組、検事、判事と、あらゆる種類の警察関係者女性と付き合うボッシュであった(女性の方から寄ってくる)。

ボッシュがドナと一線を越えたきっかけが、マディの彼氏アントニオに、放火事件で亡くなった少女ソニアのことを聞かれて辛くなったからという描き方が秀逸。アントニオは「話せば気がまぎれるかと思って」と悪気はないだけタチが悪い。ボッシュはこれまでも、受け止めきれないほど酷い被害の有り様に仕事で接して精神のバランスを崩しそうになったら女性との恋愛に逃避してたんだろうな、と思わせる。

ドナは裁判所の駐車場のいつもとは違う場所に車を停めることにより、暗殺犯に銃を突きつけられながら彼に気づかれることなく到着予定のボッシュに警告した。自分が死ぬ前にそこまで頭を巡らすことのできた彼女は、間違いなくボッシュ好みの勇気があり頭の切れる女性だったのだろう(その点で、元妻のエレノアに似ていた)。

ソベルはボッシュと付き合っていたために暗殺の標的にされた。彼の母親も元妻も殺されて亡くなっている。すべてボッシュに責任はないが、ここまで周りで女性が命を落とすと、「自分のせいだ」と感じるのも無理はない。

ボッシュは10歳の少女を放火で殺したペニャを組織犯罪の証人にするために保護しようとする司法システムに絶望する。チーフのアーヴィングに啖呵を切り、バッジを返上して警察を辞め私立探偵になるのだが、後継作の『ボッシュ: レガシー』ではバッジを悪用して刑事しかアクセスできない情報を得ている。元々型破りな刑事だったが、私立探偵になってからますます遵法精神をなくしている感はある。

前シーズンでは「組織のルールを守るか否か」が重要なテーマとなっており、父親を守るために検事局の資料を盗撮して弁護士に送っている。それを彼女が話すとボッシュは、"You play by their rules"と言い、刑事としての高潔さを示している。しかし最終シーズンでは、少女殺害の実質的主犯を保護した司法システムに不信感を抱いている。この変化は、今後の展開にどう影響してくるのだろうか。

署内のインセルの標的にされたビレッツ警部補の下りが、組織内で成功した女性に立ちはだかる壁を示しており、めちゃくちゃリアルである。彼女はヴェガの協力を得て、インセルの男性巡査二人と上司であるデニス・クーパー警部のでっち上げだったことを証明した。しかし組織を維持するために、これまでに受けた数々の嫌がらせに対し、損害賠償訴訟をしないことを決意する。「署内のあらゆる権力を手にしたいの」と言う彼女は、すでにボッシュが言うところの「正しいこと」("justice")よりも「権力」("power")に取り憑かれているのかもしれない。

ビレットに嫌がらせをしてきた男性巡査二人がパシフィック署から異動してきたと知り、自分がハリウッド署から同署に異動させたボッシュの元カノに巡査二人の人物照会をする。するとその元カノも生魚をロッカーに吊るされるという嫌がらせを受け、ビレットに「私をあなたの闘いに巻き込まないでほしい。私には私の闘いがある」と釘を刺す。女性だからといって無条件に女性の味方になってくれる訳ではないというシビアな側面を示している。しかし、元カノはボッシュをセクハラで訴えないという条件で自分の不祥事による停職を免れた過去がある(そのせいでパシフィック署に飛ばされ、おそらく一生制服組である)。ビレットのトラブルへの介入を回避したのにも、彼女の自己中心的な性格が垣間見える(ビレットはビレットで、シーズン2でパシフィック署に飛ばされた彼女に「私の時代ならとっくにクビになってた」と冷たく切り捨ててはいたが)。

アーヴィングは自分が息子のジョージを潜入捜査で失ったことを忘れ(死亡時20歳)、10歳のソニアが亡くなった事件の主犯を見逃そうとする。ジュンとの間に男の子が生まれたことが原因だと思われる。全シーズン追ってると、彼の意識の変遷が見えてきて感慨深い。しかし彼の元妻はもう登場しない(「いつまでも待ってるよ」と言ってたのにもかかわらず、アーヴィングは早々にジュンと付き合い始めた)。年齢的にすでに子どもを産むことは不可能になってから、ジョージを亡くした彼女は。「出世の近道だから」と息子を潜入捜査に送り込んだアーヴィングには新しい息子ができたのに、彼女には誰もいない。非常に残酷な側面を持つサブプロットである。

ところで、いつも受付で連絡係をしている警官がスティーブン・キングの本を読んでいる場面がある。Twitterでキングがこのドラマと主演俳優を絶賛していたことへの返礼だろうか。
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