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熱い空気のnorisのレビュー・感想・評価

熱い空気(2012年製作のドラマ)
2.5
少々ややこしいのだが、清張の原作(63年刊)は66年と79年にドラマ化され、83年に初めて市原悦子がヒロインを演じて「家政婦は見た!」という副題が付き、以降2008年まで「家政婦は見た」のタイトルで断続的に26話まで放映され(土曜ワイド劇場版)、さらに1997年には木曜ドラマ枠でワンクール(11本)が放映された。これらの再放送が相次ぎ、市原悦子の代表作になったのだが、清張は「家政婦は見た」への関与を拒否したため、ヒロインや家政婦会の名は違うものになっている。

本作では米倉涼子がヒロインを演じるが、なんとまた「家政婦は見た」の続編が2本作られた。もちろん清張とは別物で、市原悦子版とも別物である(3つ目の名前)。

そういうわけで、原作の名を冠した2人の女優のドラマと、派生した2系統のドラマシリーズがあることになる。

さて、そもそも家政婦とは、大正時代に女中が払底したために家庭に派遣されるようになった「派出婦」が、戦後名称を変えたものである。つまり清張が書いた60年代にも女中が払底している状況があり、国の主導で家政婦が戦争未亡人などの働き口として確立していく流れがあった(米倉が所属する渋谷の「協栄家政婦会」は100人もの家政婦を抱えており、本作の舞台となる稲村家では「次の女中が決まるまでのつなぎとして」家政婦を雇っている)。

たとえば谷崎潤一郎的な世界においては女中は「娘」と相似だが(「小さいおうち」のように)、それと家政婦の違いは、ビジネスとして派遣されている「他者」だということだ。そこで清張は冷徹な観察力のある女が家庭の不幸の因子をあぶり出すという構図を作った。

ちなみに原作には続編などないので、幕切れではヒロインは反省などせず、子どもに火のついた矢を耳に打ち込まれてオシマイである。悪意のもとに夫の浮気で離婚したという過去があるというのは原作通りではあるが、「家政婦のミタ」(2011)のような告白場面は不要だった。

あと、野際陽子がマッチで耳掃除をして火傷するというのも、マッチ自体見たことない人がいる今、意味不明だったと思う。そもそもラスト(火のついた矢)の伏線なので、要らなかったのではないか。

本作は米倉涼子の一連の清張ものなのだが、その跡を継いでいるように見える武井咲も、このドラマを演じる日がいつか来るだろうか。
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