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青天を衝けのakのレビュー・感想・評価

青天を衝け(2021年製作のドラマ)
3.7
未だに問題になっている"分断"や"格差"に渋沢栄一が向き合っていたことが伝わってくる作品であった。アメリカや中国などは保護主義に傾倒しつつあり、トランプは国境に壁を作るとまで言っていた。日本にしても移民の受け入れ率は非常に少なく、技能実習生など外国人に問題のある態度をとっている。栄一の頃は尊王攘夷を掲げていたが、現在は都合の良い場面で外国人を利用し、それ以外は冷たい態度をとっており成長は感じられない。また、国会に侵入したQアノンはフェイクニュースや陰謀論を信仰して、危険な行動を行った。これも栄一たちが参加し、対峙した尊王攘夷と被る側面もあり、こういった側面からも現代の分断と栄一たちが直面した分断は重なるといえる。
格差についても、初期の重要なエピソードである栄一たちの稼いだお金が領主に無慈悲にも徴収されるところから強調されていく。これをきっかけとして栄一は身分に左右されない社会の創設を志していく。新政府の一員となった栄一はその志を一度は失いそうになるも、パリで出会った"合本"を手がかりに新しい社会を作り上げだそうとしていく。多くの会社を栄一が作ったことはその功績と言えるのかもしれない。しかし、政府と一流の会社が日本を牛耳っている感じは現代と同様で覆らなかったような気がする。
近代日本経済の父と言うぐらいであるから、栄一に保守的なイメージを持っていたが本作の栄一は非常にリベラルであった。東京養育園の創園による貧困層の保護やアメリカに何度も赴き日本人の為に演説する姿は心打たれた。一方で、家庭での不本意な栄一も描かれていた。篤二との確執や妾の出現などプライベートな面での問題にも足を突っ込んでおり、一人の不完全な人間であるとこも強調されていた。
女性の描き方も現代にアップデートされているのも印象に残った。千代は本格的ではないものの学んでいる描写があり、その言葉で栄一を救った。富岡製糸場の立役者として数多くの女性がいた事、千代が中心となってアメリカ大使を歓迎した点も女性の活躍という点で印象的だ。40回でアメリカ大統領が"なぜ日本の夫人は表に出てこないのだ"といった発言もこのことを意識して作られた台詞であろう。
影の主役であるといえる徳川慶喜も非常に魅力的に映っていた。光ってしまうと自らが言ってしまうほどのカリスマ性とオーラを纏いつつも、誰にも心を見せないような暗の両立が素晴らしかった。将軍職という沈没しかけの化け物職に就き、慕われつつも日本の為を思い大政奉還を行う。そんな悲劇のプリンス慶喜であるが過去の忠臣や栄一の絆で最終的には生きててよかったと思うところは何とも言えない味わい深さがある。栄一が伝記を書いたように今作で新たな慶喜を発見することができた。
栄一の晩年の落ち着きはありつつも、迫力のある感じや身体はボロボロながらも仕事をする姿は『カーネーション』の晩年小原糸子を彷彿とさせ年の経過を見事に感じさせてくれた。弟子や子供に支えられつつも何かを成し遂げようとする姿はやはり偉人のバイタリティだ。
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