Oto

パニックコマーシャルのOtoのレビュー・感想・評価

パニックコマーシャル(2019年製作のドラマ)
3.0
職業を生かすとか自分しか知らない世界を舞台にした物語は解像度が高いので面白くなりやすいとシナリオを習うと散々言われたけど、これはたしかに広告プランナーにしか書けない作品。
すべらない話でR指定が話していた韻踏み漫談や清塚さんの紅白漫談もだけど、当人ならではの特殊な状況で追い込まれる主人公というのはベタに面白い。

CM撮影の1日をワンシチュエーションで描くという設定はもちろんだけど、「クライアントのわがままでどんどん企画がダサくなる」とか「それを上回るアイデアで乗り越える」という構造を具体的に描写するとなったときに、それを説得力のあるリアリティをもって映像に映せる面白いものにするには、やっぱり作家が自身の身体で体験したエピソードや葛藤が大事なんだなぁと思う。

商品を売りたい得意先、賞を取りたい監督、路線を守りたいタレント、その板挟みで追い込まれるCD…それぞれの事情が交錯して、どうしようも無い状況に流れ着くコメディ。
さすがにクライアントや営業の頭が悪すぎる(石瓦がコロッと寝返る)とか、現場でそこまでの変更は無理やろとか、ツッコみたい部分もあるのだけど、そのシンプルな構成の中で生まれている葛藤はとてもリアル。Done is better than perfect.

CMを用いて人物の紹介と事情を伝えるという演出は、特に見事だと思ったけれど、これも全体と合致した表現だし、しかも業界を知らないほとんどの人に分かりやすく説明するという役割も兼ねていて、美しいエンタメだと思った。あるいはコントとも言えるくらいにウェルメイドで、映画にはなりづらないとも思う。
けど「ひとつの見方しかできない奴に、良い広告は作れない」とあるように、それぞれに秘めた事情があってそれを立場的に言えない辛さとかって万人が抱える普遍的な葛藤。

ト書きやリアクションの書き方がカジュアルなのとか、CMシーンから始まってモノローグを多用しているのとか、自分の頭からはなかなか出ないアイデアだし、CM第2弾が石瓦とリンカに絞られているのとか、形式に囚われずに必要なものだけを見せる構成とか、参考になる上手さが色々あった。

と、ここまではシナリオの感想。続けてドラマも観たのだけど、こっちは少し残念に感じた...。

一番不満なのはキャスティングで、田中要次さんは素晴らしい役者だと思うのだけど、得意先の悪役に彼を持ってきてしまったことで、「理不尽なことを言う人」という印象は全くなく、「正当なことを主張している人」に見えてしまい、逆に主人公の芝居に説得力がない分、そりゃそれだけおどおどしてたら怒られるでしょう...という真っ当な構造に見えてしまって応援できなかった。キャラのパワーバランスをわかっていないように思う。

せっかく面白いシナリオが集まるコンクールなんだから、人気はなくとも実力のある役者を揃えて、このコンクールのグランプリをみれば毎年面白いものが見られる!という登竜門を目指せばいいのに、どうしてファンコンテンツにしてしまうのだろう。

へたな映像化のせいかシナリオの粗も露見されて、上に書いたような現場におけるいざこざとか、笑いのために作られたバケツリレー、そこそこのCMをつくってめでたしとなってしまう強引な展開に、無理があるな〜と思わざるを得なかった。スマホで撮る必然性もない表現だったし。監督やアイドルマネージャーとか面白い要素もあるだけにもったいない。作家と一緒に演出を練り上げるというのをどれくらいやっているのかが気になった。

脚本:https://www.fujitv.co.jp/young/scenario/31th_01.pdf
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