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けものみちのnorisのレビュー・感想・評価

けものみち(1982年製作のドラマ)
4.0
いつも通り原作から書くと、「わるいやつら」から引き続いて62〜63年の週刊新潮に連載された長編である。本作は65年の映画版(池内淳子)から18年後の映像化(NHK土曜ドラマ)になるが、西村晃演じるエロ爺の邸宅(松濤らしき雰囲気)の庭は清張邸がロケ地とのこと。今回、再放送の録画で見たのだが、清張と主演2人(名取裕子と山崎努)の立ち話がおまけについていて興味深かった。

名取裕子という女優について、私は「時代劇の人」という感じで関心を持ったことがなかったのだが、本作を見るとやはり逸材であると首肯できる。名取は当時「CMの演出をめぐって」事務所とトラブルになり、仕事をホサれていたのを和田勉が声がけして本作に出演、みごと期待に応えたということらしい。この原作の見どころはなんといっても名取が演じた民子だから、名取はここぞというときに強い女優なのだろう。

ただし本作(70分×3話)は原作とは結末が変えていて、人死にも少なく、ラストは山崎努と名取がともに破滅するシーンで終わっている。

サングラスをかけて何者だかわからない山崎は、原作の「小滝」にぴったりだ(ホテルニュージャパンがモデルとされる「ニューロイヤルホテル」の支配人で、後半はそこを辞めてセレブ相手の古物商になっている)。山崎は2年前に同じ和田勉演出の「ザ・商社」というドラマ(これも原作は清張の「空の城」)にも出ていて、「今回は英語がなくてラクでした」と清張に語っているのだった。

客演では#加賀まりこと、怖い顔の刑事を演じた伊東四朗が印象に残った。伊藤という人は自分の顔の怖さをよく知っていて(「ミンボーの女」も怖かったね)、「顔が威圧的で面白い人」というコンセプトで、サーカス団長のベンジャミン伊藤というキャラを創造した。
西村晃のエロ爺もいいのだが、本作は「財界の黒幕」(小佐野賢治がモデルと言われる)を隠喩ではなくリアルなものとして描いている稀有な小説だという。

さて本作以後、この原作は91年に十朱幸代、06年に米倉涼子で映像化されていて、これからそれを見てみようと思っているところだ。

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十朱幸代版がFilmarksにないので、そちらの感想も以下に書いておく。
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本作は約10年後(91年)の十朱幸代版である。火サス版、もしくは中島丈博版と言うべきか。

2時間ドラマと言っても正味は1時間半足らずだから展開はスピーディで、のっけから十朱がリウマチで寝込む夫を焼き殺すところから話が始まる。夫がチンピラだったとか、夫を寝たきりにしたのが鬼頭洪太宅に詰めているヤクザだったという伏線はなし。

ホテルニューローヤルの怪しい支配人・小滝を演じるのは草刈正雄で、最後に貸別荘の風呂場で十朱を焼き殺して一人生き残るのだが(39歳と50歳という年齢差のカップルである)、いかにも演技がまずすぎるせいか出番はずいぶん少ない。その分活躍するのが刑事の河原崎長一郎で、同郷のよしみで、けものみちに堕ちていく十朱の身を案じる役どころなのだが、脚本上の窮余の策とおぼしく、ぱっとしない。

エロ爺の黒幕は大竹秀治で、これはさすがのいやらしさである。この黒幕の後釜を狙う新興のフィクサーというのが(名前だけ)出てくるので、終盤は急にヤクザ映画的な構図になり、大竹は早々に急死し、暗躍していた秦野弁護士もその葬式の最中にドスで刺されて死ぬ。

草刈正雄が十朱幸代を殺すのは「いろいろなことを知りすぎたから」とされており、つまり十朱演じる成沢民子は、赤坂に店を出してもらうのを楽しみにしていたが果たされず、いろいろやられ損の哀れな女という描かれ方であった。知恵も野望もない、ひたすら情にすがる、体しか取り柄のない女は、十朱幸代という女優が好んで演じた役柄ではないだろうか。

脚本 - 中島丈博
演出 - 深町幸男
プロデューサー - 嶋村正敏(NTV)、近藤晋(総合プロデュース)、坂梨港(電通)
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