rayconte

ある家族の肖像/アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルーのrayconteのレビュー・感想・評価

5.0
大ファンのデレクシアンフランス監督作とあって、邦訳を待てずオリジナル版を視聴した。
日本ではまだ途中までの配信なので、ネタバレは避ける。

本作は、統合失調症を患う兄と、その双子の弟をマークラファロが一人二役で演じる家族ドラマ。
「フォックスキャッチャー」の怪演から僕は彼の虜で、多くの人は彼目当てでこのドラマを見ると思う。
だが、この作品はそれ以外にも多くの魅力と、テーマに対するクオリティが研ぎ澄まされた素晴らしい出来だ。

「ブルーバレンタイン」他、過去のシアンフランス作品からもわかるように、彼は「温度」あるいは「空気」を描くことに非常に長けた作家だ。
なんとなくよさげな(あるいは賢こげな)雰囲気を醸すアート系作家はたくさんいるが(たとえば日本なら青山真治とか)、結局中身がなくてただ退屈というのはよくあるパターンだが、シアンフランス監督の醸し出す「空気」はそれらと全く次元が違う。
セリフでテーマを語るような野暮はしないが、出来事の前後の関係性で静かに、でも着実に文脈を積み上げ、それが最終的に結実する。
それらは謎解きか、もっといえば僕らが日常で誰かのことを知っていく過程と相似していて、「人を知っていくこと」の尊さを失わず、でもきちんとエンターテイメントとして昇華した、非常にロジカルでテクニカルな手腕が成せる業なのだ。
本作でもその才能はいかんなく発揮され、映画より尺のあるドラマシリーズのほうがむしろたっぷりと時間をかけ、精緻に人間を描いている。

「I know this much is true」は、翻訳するなら「それだけは確かだって知ってる」。
双子は、その言葉とは正反対の人生の中で「確かなもの」を掴もうともがく。
痛切だし決して明るい作品ではないが、人間の魂のありかについての普遍的な問いに必死で答えを見いだそうとする双子の様には、きっと心は震え、生きていく上で自分が大事にしているものを誰かも大事にしてくれているような気持ちになるだろう。
多くの人に観られるべき傑作である。
rayconte

rayconte