はるな

今ここにある危機とぼくの好感度についてのはるなのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

“批判されるのが嫌だから何も言わない”主人公が、大学の広報担当に着任。大学で起きるさまざまな問題や不祥事に対し、理事会に言われるがまま隠蔽工作やごまかしに奔走するが、次第に「これでいいのか?」と疑念が生まれてくる…という物語。

期待せずに見たものの、授業料引き上げの説明会をする直前、主人公の上司が「あの教授には気をつけろ。あいつは正論ばかり言う」と耳打ちし、正論への対策をアドバイスしたシーンから釘付けになった。

正論が始まると、理事会側は彼が話し疲れるのをじっと待つ。そして話し終えたら「貴重なご意見ありがとうございました…」と言ってまともに取り合わず、議題を先に進めるというもの。

なかなか責めてるよなぁと。これをNHKが作っているということに驚き。

▼2話
主人公がみのりに「また連絡していい?」と尋ね、笑顔で「…ダメ」と答えるシーン、とても美しかったな。想像力の欠如は、人を傷つける。

▼3話
学生が主催するイベントのゲストが書いた“日本の現状に斬り込んだ書籍”が炎上。その火が飛び火するのを恐れた大学側がイベントの中止を宣言するが、その決定は「言論弾圧ではないか」と波紋を呼び、海外メディアの記者会見を開くことに。

主人公は学長を守るため「中身のない返答を繰り返す」原稿を作成するのだが、その言い分が「中身がなければ記事の文量も少なくなり、結果的に人々の記憶に残らない」というもの。これには笑った。権力者サイドってほんとそういうこと考えてそうだよなぁと。

良かったのは、その原稿通りの会見を開くも、ある記者が「先生は考古学の教授ですよね。言論弾圧の歴史もご存知のはず。黒人解放運動をしたキング牧師は、“本当に恐ろしいのは悪人ではなく善人の沈黙だ”と言いました。僕は先生が沈黙しているのが悲しいです」と発言し、学長は目を覚ましてイベントの継続を決める。

このシーンは、空虚な人にどう働きかけるべきかを教えてくれた。相手のことを知り、その人の肩書きではなく、パーソナリティに向けて語りかける。あんな風に言われたら、グサッとくるよね。

▼4話
大学の威信をかけて挑む一大イベントの直前に流行した、謎の病。調査すると、大学から流出した新種の蚊が原因であることが分かるが、理事会は「イベントを中止させるわけにはいかない」と言って隠蔽しようとする…

ってまんまオリンピックとコロナのことやないかーい!いやほんとこのドラマ放送できたのすごい。日本のクリエイティブもまだまだ捨てたもんじゃないな。そしてこれを放映してるのがNHKという皮肉さよ…。日本のメディア界は何をやってるんだ。

「この大学は嘘ばかり。真実を知るには自分で調べるしかない」とか、うっ…となったよね…。

▼5話
素晴らしかった。冒頭から主人公の日和見主義がバキバキに是正されて「愛の力だ…!」とか言ってる展開も面白かったけど、ちゃんと長続きせずすぐに心折れたのも良かったな。変化というのは薄紙を剥ぐように起こるもの。

流出があったことを告発する、という学長に対して理事が「お金がなければ熾烈な競争にも勝てない、現実を見てください!」と言い、それに対して「現実を見ています」「今のまま隠してやり過ごしても、熾烈な競争に我が校が勝てると思わない。何故なら腐っているからだ」と答えるシーン、しびれたなぁ。「嘘ばっかついてるとお互い信頼できなくなる。お互いを信頼できない組織が成長なんてすると思う?」というセリフも良かった。

ことが落ち着いて人事変更があったあとも、須田理事を残した結末もすごく良かった。隠蔽する人は、手段は間違っていたとしても「この学校のことを守ろうと必死になってくれる人」でもあるんだよね。

ラストの「バッシングしすぎても問題は解決しない。むしろ隠そうとする人が増えるだけ」というセリフもとても良かった。

優しいギターで始まる、低音ボイスの洋楽もとても良かったなぁ〜。女性アーティストの曲起用しそうなところだけど、毎回重みのある結末だったりするから、あの低音がすごくしっくりきた。

総じて、よく作ってくれた!という作品でした。俳優陣も隅々まで豪華かつ名演だった(特に好きだったのは赤いマフラーの先生とみのりちゃん。でも、さほど出番の少ない役者さんまでキャラがぴったりで、本当に隙がなかった)し、今このときにこのテーマの作品作るのすごすぎだし、批判しすぎたり説教くさかったり、逆に都合良すぎたりしないバランス感覚も素晴らしい。
はるな

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