三樹夫

ダウンタウン松本人志の流 頭頭の三樹夫のネタバレレビュー・内容・結末

3.2

このレビューはネタバレを含みます

1993年制作の松本人志の映像作品。海で頭頭という生物が採れ、食用として幅広く流通している世界が舞台。頭頭はリトルグレイをもっと人間寄りにしたようなビジュアルで、気持ち悪さを覚えるデザインにされている。そして頭頂部を切断し髪の毛をムシャムシャ食べている。最初は気持ち悪いと思うのだが、頭頭が存在する世界が1時間ずっと描かれるため、この世界においてはそれが普通だと認識し、頭頭を食べることに対して疑問を持たなくなる。最後のシーンで五目そばに頭頭の毛を大量に入れて出されるのも最早何の疑問も感じない。しかし「髪の毛入っとるやんけ」のツッコミの一言ですべては逆転して終わる。

松本人志は発想とフレーズの芸人だと思うのだが、彼の発想が如何なく発揮された作品になっている。観ている側も頭頭を食べることを普通のことだと思う1回目の価値観の逆転と、「髪の毛入ってるやんけ」のツッコミでまたひっくり返される2回目の価値観の逆転という発想は凄い。ツッコミが入るまでは1時間ずっとボケ続けているという状態だ。
価値観の逆転は藤子・F・不二雄も好む話で価値観の逆転のSF短編がいくつかあり、この作品を観ていて藤子・F・不二雄のSF短編を想起する。
頭頭以外は普通の世界と変わらないという、1つだけ日常世界に変なものがあるというのは『HITOSI MATUMOTO VISUALBUM』の「巨人殺人」でも後に行われる(「巨人殺人」は坂東がめちゃくちゃデカい以外は変なところはない話)。1つ変なものが出てきて創り出される世界は松本人志の好むところなのだろう。

発想はいい作品なのだが、いざ1時間に渡り映像で観るとなるとキツい部分もある。ツッコミまでの1時間に家族から完全に邪魔だと思われるジジイという、これまた松本人志の得意とする庶民生活の中にある悲愁があり、川に身投げしたジジイが子供に頭頭と言われるシーンで、頭頭は身投げした人間かもというカニバリズム色を帯びたりもするが、やはり松本人志は発想の人および言葉の人だなと思う次第で、映像で語る人ではないため1時間持たせるだけの画作りやストーリーテリングが出来ているかというと疑問だ。ただこの作品の1時間というのはギリギリの許容範囲のように思える。『大日本人』のように1時間を超えてくるとさすがにキツ過ぎるため、彼のやり方でギリギリ映像作品として成立し得るのは1時間までというのをこの作品が示しているように思う。
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