れん

ハケンアニメ!のれんのネタバレレビュー・内容・結末

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

2022.5.28追記
先行上映会で初めて観た後、公開後も観に行きました。

構成は原作と変わっていますが、原作に含まれるたくさんのテーマと熱さはほぼそのままでとても良かったです。

1回目に観た時は、アニメや演劇が好きでこじらせてる気持ちから感情が追いつけなくなり、あとキャストの方々の素晴らしい表現力に刺されすぎて魂ごと持っていかれた感覚になりました。(下記に感想記載)

登場するキャラクター全員が、自分のやりたいことに戸惑いながらも真剣に立ち向かっていく全方向に熱い人間ドラマなので、アニメに興味がなくても、創作をしたことがなくても、全ての年代のいろんな人が楽しめると思う内容です。

原作掲載当時と本作に10年の差があり細かい部分で感じた違和感は、結局ここ何年かで労働環境や性別、収入格差、やる気搾取の問題が表面化して考え方が変化したことを表しているのも面白いと思いました。

とにかく、誰でもどこかの場面で共感できるので、観れる人には観てほしい作品でした!


以下
2022.5.6 梅田ブルク7にて1回目鑑賞後の感想

大阪にて、吉岡里帆さんと吉野監督の舞台挨拶付き先行上映会で鑑賞しました。

数十年、実写もアニメも観るのが好きな平凡なファンです。いろいろ思うことが積み重なっているので、自分でも気持ち悪いほど重い感想になりました。


普段、映画を観終わった時、頭に浮かぶ言葉は面白かった、楽しかったなどですが、映像コンテンツを観る環境が変化していることや、予想外のリスクがいつ起こるかわからない不安がある状況下では、この作品は手放しで楽しさ云々だけでは済ませられないと思いました。

もし2018年頃に観ていれば、違う感想だったかもしれません。労働条件の問題、ひとつの作品をメインに大々的に盛り上げる宣伝、京アニでの事件やパンデミックを目の当たりにした今となっては、どうしてもフィクションを楽しみながら、現実の問題を同時に思い出してしまいます。

これは決して否定的な感想ではありません。
そこまで考えさせられるぐらい、原作者の辻村先生、キャスト様、スタッフ様、全員の方の本作品への想いと、創作へ向けた真剣でとても熱い気持ちがスクリーン全体からぶつかってきたからこそ、ただのファンですが、敬意を持って自分がどう感じたかを記録しておきたくなりました。

観ながら、キャストの方の鬼気迫る表現とVFXなどの演出、生活音も含めた音響、美術、衣装、劇中アニメーションのクオリティの高さに、楽しさの反対側に存在する葛藤や怒り、悔しさなどをひしひしと感じて、ささるのを通り越して途中で過呼吸を起こしかけました。

キャストの方それぞれ思うことはありますが、メインのお二人についての感想だけ書きます。

吉岡里帆さん演じる瞳は、疲れていてもアイデアが浮かんだ時にタブレットに向かう時の眼差し、嫌なのに撮影されてしまう時の表情、終盤にかけてアフレコスタジオで指示を出す姿や部屋を走り回りスタッフを捕まえる姿がとても良かったです。笑顔がとても素敵な吉岡さんなのに、ほとんど笑わないお姿を見るとは想像していませんでした。なので、銭湯で尾野真千子さんと語り合うシーンや、最後のベランダから外で遊ぶ子供たちを見る時の表現も苦しさからの解放感があって良かったです。

中村倫也さんの王子千晴は、原作からのイメージ以上にさまざまな感情表現に溢れていました。イケメン、カリスマ、傍若無人など、世間から貼られたラベルと自分の内面との乖離によって起こる焦りと、オタクを低く扱う目に見えないヒエラルキーがまるで無いかのように人気クリエイターを持ち上げる風潮への怒りや苛立ちを、ファン(世間)に向かって真っ黒な目で前を見据えて捲し立てるのが興味深かったです。あと一番印象的だったのは、リデルライト初回放送をスタッフと一緒に見る場面で、自作を見ずに瞳が造ったサバクをスマホで観る時の表情です。瞳へのライバル心は全く感じさせず、本当にのめり込むように画面を見つめる眼差しが、王子の創作に対する、ものを見極める才能やセンスの良さを表しているように思いました。あと、最終話コンテを描き終わって机に突っ伏してる時の背中から醸し出される闘い終わった雰囲気が、香屋子と対比するような色彩や照明の演出と合わさって静かな感動に繋がりました。

劇中アニメは2本とも単体で観たいです。あれだけで終わらせるのが本当に勿体ないです。

いちファンとして、SNSへの投稿が及ぼす影響を考えさせられる演出もありました。ステマも含めて、無神経に書き込む言葉が作る人を精神的に追い込んでいるのを可視化されたのは恐ろしさも感じました。


アニメ制作の現場で現実に起こった事件や問題で被害に遭われた方のことを忘れないようにしようと改めて思いました。


今までの経験で、どうしてもネガティブな側面も考えてしまいこんな重い感想になりましたが、何かを作る人や消費する人にもこれからの希望に繋がる作品だと思いました。
公開されたら、また観に行きたいです。
れん

れん