パイルD3

アウトフィットのパイルD3のレビュー・感想・評価

アウトフィット(2022年製作の映画)
4.0

これは注目しても良い、細部まで作り込まれた作品でした。


 主人公の年老いた“裁断師“は、仕立屋と呼ばれることを嫌い、その場で裁断師だと訂正するくらい職人としてのプライドが高い。
そして、彼の道具は一本の古い裁ちバサミ。
料理人の包丁みたいなものだ。
これ一本あればどこでも食っていけると言う。
そのハサミを見せられたギャングのボスが、
「人と猿の違いは道具を使うかどうかだ」と、昔読んだらしき本の一節を口にする。
「この世では道具の使い方は選べるんだ、破壊するか創造するかだ…」
と、その場で俺の道具はこれだとピストルを差し出してみせる。

グイグイと緊張感が高まっていくこのストーリーの中で、幾つものスーツを人のために作ってきた老職人と、幾つもの死体の山を作りながら街を作り上げてきた老ギャングが見せた、後半に登場する変な心地よさを感じさせてくれるさりげないシーンだ。

この後、ボスがあることに気づいて、事態は急転するのだが…。

舞台となるのは、シカゴの下町の一角にある紳士服のオーダーメイド店。
どうやら訳ありらしく、怪しい連中が出入りしているのだが、ドラマはこの店内だけで展開する。
あえて一幕ものの舞台劇をイメージして作られている周到なセリフ劇でありながら、少ない登場人物たちの中で意外な言動が続く流れに一気に引き込まれてしまう。迷い込まされると言った方が正しいかも。

室内劇なのでカメラで動きをつけている部分もあるが、なんせシナリオの出来がいい。

このスタイルの映画は、セリフの応酬が生命線で、アンソニー・シェーファー原作の「探偵/スルース」や、アイラ・レヴィン原作の「デストラップ死の罠」、アリエル・ドーフマン原作の「死と処女」といった傑作戯曲の映画化作品を思い出した。

「ブリッジ・オブ・スパイ」でアカデミー助演男優賞を受賞したマーク・ライランスが、ここぞとばかりに舞台で鍛え抜かれた、硬軟自在の絶妙な演技を見せる。
この俳優はかつてドラマの中の人物同様、ロンドンのサヴィル・ロウの高級紳士服店で修行していた経験があるらしく、なるほど役柄への馴染み方がハンパなかった。

主人公が、冒頭のナレーションで裁断師の仕事を微細に説明するくだりで、誰のために作るのか?客はどんな人物か?が重要だと説き、ストーリーのポイントともなる能書きを口にする。

「採寸して何者かを理解したら準備完了だ」

一見地味な仕立てながら、ギラリと輝くオーダーメイドの一級品。
パイルD3

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