ツクヨミ

生れてはみたけれどのツクヨミのレビュー・感想・評価

生れてはみたけれど(1932年製作の映画)
3.5
小津安二郎の黎明期はカメラが動き回ってたんだなぁ。
引っ越してきたばかりの家族の息子兄弟は学校のガキ大将とケンカするのが億劫でサボってばかりの日々、そんな折に父親にサボりがバレてしまい…
小津安二郎監督作品。amazon prime videoだと活弁付きだったがそのまま鑑賞、今作は"小津調"をまだ確立していないカメラワークが動きまくる珍しい小津安二郎作品を堪能できた。それは主人公である子供にずっと付いて回り横移動するスクロールや、原っぱで習字をする兄弟をぐるっと撮ったドリーショットだったり、机に向かって物を書くのを大人から子供へ移すマッチカットだったりと映画技法の見本市的な作品だったからに他ならない。ここから見えてくるのは1932年の小津安二郎の実験的で黎明期のカメラワークというか、スタイルを模索しているチャレンジ精神が見てとれて面白かった。
また内容に関して言うと今作は実にコメディである。子供たちが外で遊んで歩いたり悪戯したりするので主人公兄弟は先生や父親によく叱られるのだが、その姿が可愛らしく滑稽に見えてきて笑いを誘う。
しかし今作は小津安二郎監督作品だ…後半からはそんな子供の目線から"社会の縮図"を描く社会風刺的な側面を見せていく流れが凄かった。子供たちは父親たちの会社での様子を"活動写真"という媒体で知るのだが、そこに映っていたのは上司にゴマを擦り芸達者で面白い男として見られている父親の姿がなんとも惨めに見えるのだ。そしてその流れから親子喧嘩に発展し、社会というのは金持ちが偉くて貧乏人は偉くないのか?という子供目線から訴える痛烈な社会の縮図が掲示されなんとも居た堪れない気持ちになった。いくらコメディテイストであろうと家族内のいざこざを挿入する小津安二郎のスタイルは実に健在で、やっぱり小津安二郎作品は心に響くものがあるなと改めて感じた。
小津安二郎の撮ったサイレント映画の中でもカメラワークが面白かった本作は、子供目線から見たリアルな社会構造を映していく秀作であった。甲
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