金魚鉢

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスの金魚鉢のレビュー・感想・評価

4.4
奇抜な趣向がいくつも詰め込まれている割には、根本にある「もしも別の人生を歩んでいたら」というテーマや着地は普遍的なものなのでこれは確かにかなり意見の割れそう。個人的には、これまで物語を複雑化させてきた"マルチバース"という概念をアバンギャルドかつ純粋に楽しめるアクションエンターテイメントとして上手く落とし込んでいる作品だと思いました。また後半にかけては、エブリンが全宇宙を救いながら、多様性や自分との向き合い方に気付かされるセラピーとしても多元宇宙を渡った意味が感じられて素晴らしい。あらゆる可能性に意識が飛んでしまい都度諦めてきた彼女だからこそ、全てのマルチバースを受け入れられる救世主として活躍するという設定にも懐の深さを感じました。

これだけ目まぐるしくシチュエーションが切り替わる作品は初めてだったので、最初の方は着いていけるか若干不安だったけど、何でもありなぶっとびカオスな展開が段々癖になってお下劣なコメディが家族ドラマに変わる頃にはしっかり没入してました。体感としては予告の時点で少し抵抗のあった指ソーセージの世界であったり、突拍子もない行動によって強くなるというポップな条件設定がマルチバースを巡る中で、むしろ良い具合に緩急をつけて窮屈さや息苦しさを中和してくれていた。バースジャンプする度、他にはない独特な高揚感があったし、渡る先々での多様性を反映したような衣装も個性的ながら良いバランス。おまけにキレキレのカンフーアクションまで盛り込まれているので良い意味でかなり忙しかった。

壮大なテーマ故に「その中の一つの世界線に過ぎない現実世界でくすぶる自分という存在」について良くも悪くも見つめ直すきっかけをくれる。無限に広がる可能性の幅、それらは一つ一つの判断の積み重ねであること、他者との関わりの中でほんの少しでもかけがえのないと感じるときがあれば共に過ごす意味はあるということ。家族ものをわざわざここまで大回りに発展させるのかと思ってたけど、全てを通して堂々巡りだと気付いたエブリンと不遇な扱いに耐え続けてきたウェイモンドの言葉は重みがあって響いた。

ダメな世界線の自分の失敗や諦めが枝分かれして、別の世界線の自分の成功に繋がってるって最強すぎる考え方だなと思った。
金魚鉢

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