けいすぃー

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのけいすぃーのレビュー・感想・評価

4.4
マトリックスとインセプションをベースにエヴァのエッセンスを入れて、コメディで割ったような感じ。設定の少し緩い部分もコメディでカバーしつつ、「他者理解」という大きなテーマに挑んでいるのも好感。映像体験としても面白く、音響やモンタージュを上手く使って緩急が効いていた。カラーリングや衣装デザイン、小物まで抜かりがなく、作り込まれた映画だという印象。しかし余韻はあまり残らず、映画体験としてはもう少し力強さが欲しかった。

※以下ネタバレを含みます
僕は「他者理解」がこの映画のテーマのひとつだと感じたが、さまざまな切り口を作りながらも、モチーフとテーマに一貫性を持たせ、それを打ち破る構成は気持ちが良かった。
オープニングイメージで丸い鏡にカメラが近づいていき、その向こう側の世界にいるエブリンに迫る。この時点で後ほど言及する"円環"のモチーフや、鏡を使って現実と並行宇宙の境の曖昧さを上手く表現している。
次に税務署でカラオケ代の領収書にボールペンで大きく描かれた円。これは物語の後半でも登場して、円環のモチーフを確固たるものにしていく。それはベーグルであり、日常の循環であり、自己から逸脱できない姿でもあるかもしれない。
物語のクライマックスでエブリンはその円環を打ち砕く。それぞれの並行宇宙で自分が最も取らないような、ブレイクスルーの行動を起こしていく。
自己完結を打破し、他者への歩み寄りをする様子がうまく描かれていたように思う。
けいすぃー

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