アキヒロ

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのアキヒロのレビュー・感想・評価

3.8
面白かった!

女性主人公が「バトル時に様々な職業になる」というのは、
実質これは『キューティーハニー』。
それにマルチバース要素を足したもの。
でも本作の到達する先は「世界線ガチャの失敗」という深刻なテーマだった。

主人公・エブリンはしがないコインランドリーを経営するおばさん。
旦那のウェイモンドと駆け落ちしたものの、魅力的な旦那はいつの間にかくたびれた冴えないおじさんになり、娘は太って白人の彼女とレズビアンカップルになり、父親は体が不自由で介護に追われる毎日…。
エブリンは毎日に疲れ切り、「人生のどこかで選択に失敗したんじゃないか」という思いに囚われている。
そんなある日、国税局に確定申告に行った際、ウェイモンドがエブリンにおかしな指示を出す。
それは靴を左右逆に履けという、不可解なものだった。

ギャグ要素が挟まれているので、楽しく見れた。
アライグマがシェフを操作する『ラカクーニ』は
『レミーのおいしいレストラン(原題は『ラタトゥイユ』)のパロディ。
マルチバースの自分に意識を飛ばし(その際、飛び先の自分の経験をインストールできる)戦闘するには、
「奇妙な行動を起こす」という条件が必要で、アナルプラグそっくりのトロフィーを尻に指すシーンには爆笑した。

「ずっとここが大嫌いだった」
エブリンが自分が生まれ落ちたこの世界線に後悔していた。
「生まれたときからゲームやPCがあった我々は、初期値割り振り型のゲームで初期設定に恵まれなかった場合、平然とリセットしてしまうという感覚を持っているので、同じように世界線のガチャに失敗してしまったとき、平然と『人生をリセットしてやり直したい』『これ以上この世界線をプレイしたくない』と思ってしまう」
そんな世界線ガチャに失敗してしまった者たちの心の叫びなんじゃないかと思う。
くしくも、エブリンが石になったとき、最近若者の間で蔓延している「希死念慮」というものを思い出した。
「私はもうこの世界を生きたくない」という思い。

マルチバースの世界の中心にある〈真理の扉〉の中にあるのが「ベーグル」(皮肉なことにベーグルには"中心がない(穴が空いている)")だというのも人を食ってる。
エブリンが世界線に対する絶望を持っていたのと同じように、娘も希死念慮めいたものを持っていた。
最後、ブラックホールのようなベーグルに飛び込む娘を母親が必死で止めるという流れは、ある種王道のラストだったように思う。
アキヒロ

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