calinkolinca

すずめの戸締まりのcalinkolincaのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
-
ある宿命を背負った少女と青年がお互いに出会うことで生きることの本当の大切さを知る物語。
と、言ってしまえば「君の名は」も「天気の子」もそうなのだけど、やはり新海誠監督というのは「あなたじゃなきゃいけない」「きみじゃなきゃいけない」いわゆるボーイミーツガールを書くことに長けていて。その強度はまさに天才的。

草太がすずめに言った「きみは死ぬことが怖くないのか」ということばに間髪入れず「怖くない!」と答えたことに不思議な歪みを感じていたのだけど、それがまさか幼い日のすずめに起きたあるトラウマから来た「生」というものへの歪みだったとは。それは草太についてもそうで、閉じ師の家系に生まれ、いつ命が尽きるかわからないギリギリの世界に生きる草太は「生」に対してある種の諦めを抱いていて。

そんなふたりが、お互いの足りないところを補うように旅をし、協力して扉を閉じ、いろんなひとと出会うことでお互いを「必要なひと」として大切に想い合うようになっていく。大切な人ができる、愛する人に出会う、そう、それは生きる理由が増えていくこと、死ねない理由ができること。

草太との永遠の別れ、この世界の危機に直面したすずめは叫ぶ。「死にたくない!」それは、幼くして直面した母の死、そして3.11という未曾有の大災害に直面したことで封じ込めていた「生」への渇望そのものだった。そしてその時草太が叫んだ言葉、それこそが未曾有の大災害を起こした神への我々の願い、そのものだったのではないだろうか。

そしてクライマックスを見届け、私たちは知る。私たちの住むこの世界は「いってきます」と「いってらっしゃい」でできていて、すずめと草太の旅は全国に散らばるそれに出会うための旅だった。「いってきます」と「いってらっしゃい」を繰り返すちいさなしあわせこそが、愛おしいのだと。それはもうこの世にはない、いつかあったものも含めて。いや、それこそが。そしてすずめこそがそれを知ることで開きっ放しの自身の扉を「戸締まり」することができたのだ。

キャストも皆さん素晴らしかったのですが、なんと言ってもすずめ役の原菜乃華さんと我が推し、松村北斗さんが素晴らしかったです。すずめの赤ちゃんの産声を聞いているかのような生命力漲る声には何度も涙腺を破壊されたし、一方でどこか達観した、神の視点を持つような草太の声には深い安らぎを感じました。

最後に、東日本大震災。
あの日が私たちにどれだけの痛みと、苦しみと、そしてすべての亡くなった方々への祈りを与えたか。12年の時を経て、あの悲しみから希望を抽出し、素晴らしい作品を生み出した新海誠監督に敬意を表します。
素晴らしい作品を、ありがとうございました。
calinkolinca

calinkolinca